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コメの減反政策に拠る競争力の著しい減退は青天の霹靂?:<経済教室>TPPと日本の農業(上)から 

2015年11月19日から、日経の<経済教室>
「TPPと日本の農業」というテーマで3回のシリーズが組まれました。

その第1回は、荒幡克己 岐阜大学教授による以下の小論です。
以下引用します。
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 TPPと日本の農業(上) コメ、収量向上へ減反廃止  価格競争力、強化急げ 
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環太平洋経済連携協定(TPP)交渉では、コメの市場開放に関心が高まった。
そこで本稿では、コメを中心とする水田農業に焦点を当てる。

 交渉開始直後から、現場では国内農業への打撃を危惧する声が上がった。
合意後、政府筋からは、TPPを機に輸出に目を向けるべきだとの指摘が
聞かれた。
輸入増加の打撃緩和か輸出振興か、という議論の前に、世界農産物貿易の
長期的変化をみてみよう。

 製造業の分野では、日本が米国へトヨタ自動車の車を輸出し、米国から
はゼネラル・モーターズ(GM)の車が入ってくる。
このように、同じ国が同一品目を輸出し輸入する「双方向の貿易」(産業内貿易)
は頻繁に行われる。

 これに対して、農産物では双方向の貿易はかつてまれだった。
その理由として、農業生産は気候風土に規定されることに加えて、食生活
は土着性が強いことが影響している点が挙げられる。
ところが近年、こうした農産物貿易の特殊性は徐々に変化してきた。
例えば米国はTPP交渉で牛肉の輸出国として日本に関税引き下げを迫った。
だが、その米国はオーストラリアから大量の牛肉を輸入している。
コンビーフ用など低品位の牛肉では競争力がないからだ。

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<農業関係指標の変化>
1.グルーベル・ロイド指数 ※双方向貿易の度合いを表す指数
1969年   1993年   現在
 0.301            0.484              0.566(2010年):チーズ   
0.062            0.235               0.275(    同  ) :トマト   
0.03              0.089               0.135(     同 ) :コメ   
2.コメ生産費の日米倍率
5.70倍(75年)10.46倍     9.01倍(2013年)
3.耕作面積当たり収穫量
世界3位      7位      13位(2013年)
4.小麦面積当たり収穫量
世界15位   19位      35位(2012年)
5.大豆面積当たり収穫量
世界8位     29位    37位(2012年)

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<同一農産物の双方向貿易が世界の潮流に>
上に、世界の農産物貿易の変化を表す指標として、チーズ、トマト、コメの

3品目を取り上げた。
そのグルーベル・ロイド指数の計測値を、減反開始前年の1969年、関税貿易
一般協定ウルグアイ・ラウンドが決着した93年、および現在の3時点の比較。
いずれの品目でも数値が大きくなっている。
コメでさえも世界では双方向貿易が進んでいる。

注意すべき点は2つ。
第1に、輸出振興に力を入れると「攻撃は最大の防御」というような錯覚を
持ちがちだが、そうとは限らない
例えばコメでは高品質米の輸出が伸びても、これとは別に、需要が拡大する
業務用米で輸入品に対抗するための努力が必要だ。
第2に、海外では和食ブームだが、その中で例えば国産コシヒカリは現地生産
のコシヒカリと対抗しなければならない。
現地生産の日本品種は既に海外での和食の食材として、手ごろな価格と受容
可能な品質で先行している。

2つの注意点を通じて、いずれにしても競争力強化が不可欠だということが
言える。

<日本産の品質過信せずコスト削減進めよ>
競争力は、価格競争力と非価格競争力(品質、ブランド力など)の2つから構成

日本産農産物の持つ「非価格競争力」、すなわち品質などに期待する向きもある。
しかし例えば、世界のコメ市場では、粘らないコメを好む食文化が多数派である。
「日本米は世界一の品質」という思い込みは危険である
非価格競争力だけでは限界がある
量的拡大には極力価格を下げることも欠かせない。

従って競争力強化は、輸入農産物への対抗、輸出市場開拓というどちらの意味
でも、価格競争力の強化が重要だ。
例えばコメを巡っては、最近の円安基調で価格競争力が改善したような見方も
あるが、真の実力はどうだろうか。

上の表の中段には真の実力をみるため、為替レートなどの影響を除いた数値
(米国のコメ生産費を分母、日本のコメ生産費を分子とする倍率)を筆者が
試算したもの。
93年からみるとやや改善しているが、長期的には悪化したままだ。
この間、日本でもコメのコストダウンがそれなりに進んだが、米国ではそれ以上
に進んだ。

一般に、日本農業の競争力が劣るのは、零細な耕地で農業が営まれているため
だと考えられている。
このため、対策として「規模拡大」が推進されている。
これは確かに最も重要だが、近年の競争力劣化の要因として「面積当たり収量
(単収)」の停滞がある。

稲米

<コメの面積当たり収量は世界13位に低下>
下段には、コメ単収の世界ランキングの推移を掲げた。
日本は減反開始時点から93年まで、世界3位から7位へと後退。
ウルグアイ・ラウンド決着後には、単収の停滞は一層深刻化し、現在は13位に
まで低下している。

こうしたランキングの変化は、稲作技術の進歩と制限要因のシフト、とりわけ
気候との関係が作用しているので、日本の努力不足とばかりは言い切れない。
世界の稲作は近年、雨が多い湿潤地帯でなく、日射量が多い乾燥地帯が適地と
なっている。
なお、現在世界1位はエジプトである。

それでも、世界の稲作が年々進歩する中で、日本の稲作では単収の停滞が続い
ているのは事実である。
特に最近10年はほとんど増えていない。

なぜ日本の稲作では単収が停滞しているのか。
これには、消費者の良質米志向(概して良質米は低単収)も一因だが、減反政策
の影響も大きい。
減反政策の下では、限られた割当生産量で収入を最大化するために高価格の
良質米を作ることが得策となる。
現に、単収は高いが低価格の業務用品種は、減反の作付け制限の下では生産者
は敬遠する。
政府は業務用も作るよう生産者に呼びかけているが、減反継続下では効果が期待
できない

こうした単収停滞がもたらす負の効果をみてみよう。
仮に、日本が米国と同等の面積当たりコストダウンを実現できたとしよう。
しかし米国では、単収が毎年10アール当たり10キログラム程度のペースで増加
している。
単収増加率の差の分だけ、日本は生産物当たりのコストダウンで遅れることとなる。
約7年で10%も日本米が割高となってしまう。
なお、表に参考として掲げた小麦、大豆では、一層事態は深刻である。
競争力強化の鍵として、減反を廃止し、単収の向上を目指すべきであろう。

2

なお、競争力強化と言っても、単に競争圧力をかけて弱者の淘汰を狙うだけでは、
問題の解決にならない。
農業で競争圧力に弱いのは、小規模な兼業農家よりも大規模な専業経営である
借地が多く、財務体質も弱いからだ。
専業経営に対象を絞った支援など農政上の工夫が求められる。

 これからの水田農業のビジョンを巡っては、減反廃止とコメ輸出により、
コメ生産の拡大を想定する見方もある。
しかし国内では、1人当たりコメ消費量の減退が著しい。
今後はこれに人口減少が加わる。
主食用米の国内需要は相当の縮小を余儀なく
される。

 コメ輸出は国内需要縮小を補うことが期待されるうえ、産地が活気づく効果
もあり、大いに奨励すべきだが、量的拡大には限度がある。
一方、輸入に頼る飼料を国内生産に切り替えていく方向は妥当であり、その一環
として水田での稲作(飼料用米)は湿田に限れば有効である。
しかし、振興のため多額の財政資金が投じられており、財政負担にも限界がある。
仮に輸出用、飼料用への活用を相当見込んだとしても、今後ともコメは余ると
筆者は試算している。

 長期的な水田農業の展望として、土地利用は稲単作から脱却する必要がある。
水田農業を担う専業的な経営は、集約的作物を導入しつつ複合化に向かうべきだ。
リスク分散、土地・労働力の有効活用など経営の視点で考えれば、稲単作の経営
は望ましくない。

 「稲単作からの脱却」は、過去の農政でもスローガンとなった政策目標だが、
コメ重視の政治圧力などに屈して、立ち消えになった。
今改めて、コメへのこだわりを捨て、水田農業を担う、育成すべき専業的経営
のビジョンを明確にし、長期的視点から競争力強化を進めるべきである。

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減反政策の誤り、失敗を強く指摘する論述は多々あります。
このブログでも取り上げたことがある『日本農業は世界に勝てる
でも詳述されています。

新米が出回る時期がきて、このところブランド米が激しい競争状態に入って
いることが話題になっています。
「特A銘柄」が10年前の2倍を超え、「青天の霹靂」「つや姫」「ゆめぴりか」
などの人気が高まり、「コシヒカリ」離れが進んでいるとか。

これだけ増えてくると、差別化するつもりが、反対に埋もれてしまうことにも。
そして、高品質・高価格米が本当の意味で、グローバルレベルでの競争力を
持ちうるのか、維持継続できるのか・・・。

そのためもあってか、ここ2年くらいは、玄米で30キロ1万円で購入していた
知り合いが、先日配達をお願いした時、9千円でいいと、自ら申し出てくれ、
かみさんが喜んでいました。

一升枡

TPP関連でのブログ
今まで触れていません。
各国での批准が行われなければ執行されないというので、特に日米両国で、
順調にことが進むのか。
結論が出るまでは何とも言えない、と思い控えています。

まあそれとは本質的に関係のない問題なので、この記事を紹介しました。

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