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国内農業縮小は投資不足に因?:<経済教室>TPPと日本の農業(中)から

2015年11月19日から、日経の<経済教室>
「TPPと日本の農業」というテーマで3回のシリーズが組まれました。
順に紹介していきます、第1回は
⇒ コメの減反政策に拠る競争力の著しい減退は青天の霹靂?:<経済教室>TPPと日本の農業(上)から 

今回第2回は、2015・11・20掲載の中嶋康博東京大学教授による小論です。
以下引用します。
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 TPPと日本の農業(中) 投資拡大へ将来像明確に  海外市場の開拓カギ
---------------------------------------

環太平洋経済連携協定(TPP)大筋合意の直後から、国内農業対策の議論
が始まった。

10月9日のTPP総合対策本部で策定された農林水産分野の基本方針では
1)強くて豊かな農林水産業、美しく活力ある農山漁村づくりに向けた
体質強化対策
2)重要5品目対策
3)その他で国民的理解を増進するための施策  が示された。

いわゆる「攻めの農業」対策としての姿勢表明であり、政府はここ数年、
こう
した農業政策を示してきた。

 今月末に向けて関連政策大綱が取りまとめられる。
分野ごと、品目ごとの事情を考慮した丁寧な検討が必要だが、やはりこの
タイミングで将来の日本農業をどう立て直すかという視点から総合的な
議論をすべきだろう。
以下では、1990年代の関税貿易一般協定(GATT)ウルグアイ・ラウン
(UR)対策にも触れながら論点を整理する。

<TPPの正確な影響予測や分析が不可欠>
合意内容をみてみよう。

コメについては国家貿易制度などは継続するが、米国・オーストラリアに
年間消費量の1%に近い輸入枠を与える。
ただ、同量の国内米を政府備蓄用に買い増すことで影響を隔離する措置が
すでに検討されている。
コメ以外の重要5品目についても、国家貿易制度・関税割り当ての維持、
緊急輸入制限措置(セーフガード)の確保、関税削減期間の長期間化など
の措置がとられた。

 一方、重要5品目以外の分野については、ほぼすべての品目に影響が
及ぶことを知り関係者は驚いている。
現時点で政府は、国産品は輸入品との差別化ができているうえ、TPP
域外国からの輸入品を代替するにとどまるとして、短期的な影響は限定的
と評価している。
ただ長期的には価格が低下するものもあり、生産性向上など体質強化策の
検討が必要だと指摘している。

 正確な影響予測、分析が重要であり、そうした検討に基づく明確な対策
を示さなければ、今後の農業の方向性は定められない。
現在および将来の担い手が萎縮しないか心配だ。
新規に就農するかどうかや、経営を展開するための新事業を立ち上げるか
どうかなどの決断は、5~10年先の見通しに大きく左右される。

 今後の農業については、3月に閣議決定された「食料・農業・農村基本
計画」
であるべき方向と施策が示された。
食料・農業・農村基本法の基本理念を前提に、政府の農業版成長戦略
「農林水産業・地域の活力創造プラン」の内容を取り込んだものとなった。
政策上の最大の懸念事項は、人口減少や高齢化とともに起きる農地荒廃や
担い手不足など生産基盤の脆弱化の進行であり、これらの問題を解決する
ために改革を進め「強い農業」「美しく活力ある農村」を創出することと
された。

 基本計画の検討過程では、TPP交渉の内容も展望も明確ではなかった。
そのため今回の合意内容は必ずしも計画の前提となっていない。
遂行するうえで障害がないか、影響を慎重に精査すべきだ。

 これまでも牛肉・オレンジ自由化やUR農業合意などの国境措置の大き
変更に対して、様々な対策がとられてきた。
それらの経験を踏まえた対応が必要だ。
特にUR対策の成果については疑問を持たれることが多く、このことへの
評価なくして今後の対策は設計できないだろう。

 UR農業合意関連対策大綱(94年10月)では、
「農業の魅力ある産業としての確立」
「国内生産の可能な限りの維持・拡大、国内供給力の確保」
「良質・安全・新鮮な食料の適正な価格水準での安定供給」などの基本方針
が示された。
そして講じるべき対策としては
「力強い農業構造・農業経営の実現」
「新たな米管理システムの構築」
「米以外の個別品目に係る対策の実施」などが提示された。
これらの事項は今回の対策にも取り込まれるに違いない。

 6兆100億円を費やしたUR対策の成果はどうだったのか。
対策実施後の国内の農業生産額を確認すると、95年には10兆5千億円だった
が、2000年は9兆1千億円、05年は8兆5千億円となり、その後も下がり
続けた。
これだけをみると成果がなかったように思えるが、もしも対策が実施されな
ければ、さらに減少していたかもしれない。

 国内農業が縮小した背景には投資不足の問題がある。
機械や建物などへの投資の実質額は、95年を100とすると、00年は94、05年
は74と低下し続けた。

UR対策では農業基盤整備も実施された。
生産条件の改善や農地の集積などの面で大きな効果を持つことは確かだが、
生産力の向上に結び付くには、さらなる投資が伴わなけ
ればならない。

5

<国内の食料支出総額は95年以降減少続く>
投資するかどうかは現場の判断による。
判断をためらったのは農業の収益率が低下したからだ。
貿易自由化後も円高が続き、安い農産物の輸入が増えた。
それと同時期に大きな影響を与えたのは、市場の縮小である。
国内の食料支出総額は、90年の68兆1千億円から95年には82兆8千億円
と増えたが、その後は00年に80兆3千億円、05年に73兆6千億円と減少

 これだけ食料支出が減ったのは、バブル崩壊後の景気の低迷に加えて、
この時期に国民の消費行動が大きく変容したからだ。
その結果、農産物の価格は低迷していく。
しかし円高のため輸出が難しい日本農業は、売り先として縮む国内市場に
頼らざるを得なかった。
品目によってはむやみに生産を増やしてさらに値下がりを招くこともあった。

 市場が縮む限り、どんな優れた対策も空振りに終わってしまう。
しかしUR対策時は、事態が悪化することを見過ごしていた。
同じ轍を踏ん
ではならない。
人口減少はこれから本格化し、国内市場はさらに縮むのである。

 前述の活力創造プランや基本計画ではこの問題に気付いていて、生産振興
だけでなく、フードチェーンを意識したマーケットの創造を提起した。
まずは高齢者食の開発など、これからの社会が直面する食の課題解決に
取り組み、国内市場の活性化を進めたい。

<円安やTPPを生かし農産品輸出拡大を>
海外への輸出も試みるべきである。

TPPにおける内外無差別の関税撤廃がまさに意味を持つ。
最近の円安はその追い風となる。
もちろん1年や2年で結果は出ないかもしれないが、挑戦しなければ何年
たっても実現はしない。

 13年には農林水産物・食品の国別・品目別輸出戦略が策定された。
目標は20年までに輸出額を1兆円規模に拡大することである。
しかし輸出先にTPP域外国が想定されている品目も多い。

 まずは米国をはじめTPP域内国向けの輸出を加速したい。
そのためには産地・加工・流通関係者で連携し、輸出向けに生産振興
すべきである。
さらに将来のTPP参加国の拡大も考慮しながら、短期・中期・長期
の観点からの、より戦略的な対応が必要だ。

 TPP対策では農業者の経営の安定を図ることが欠かせないが、
それは対策の手段であって目的ではない。
基本計画に従って一連の取り組みを強化し、国内の動揺を最小限に抑え
ながら、着実な経営継承、新規就農者の育成を図ることで、担い手の
転換を進めて、農政改革を果たすべきだ

 目指すべきは、これからも日本農業が信頼され続けること、そのため
に安全で高品質な食料の安定供給、地域経済への貢献、国土保全や多面
的機能の発揮を維持・発展させることだ
国民の理解と共感が得られるTPP対策としなければならない。

 トラクター

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「「1990年代の関税貿易一般協定(GATT)ウルグアイ・ラウンド
(UR)対策」にも触れながら」
とあるので、やむを得ないかもしれませんが、具体性を欠く平凡な、概括論
に終わっているのが残念です。

前回1回目の小論は、米作、水田農業に焦点を当てており、分かりやすかっ
たので今回も期待していたのですが・・・。
加えて、合意形成後、具体的に国内の農業に与える影響など、かなり取り上
げられたので、タイミング的には、そうした論を総括するような位置づけで
の内容のある提案・提言になるかと思っていたものですから・・・。

敢えて言うならば、ウルグァイラウンド対策での失敗、機能しなかった点、
今日の状況を招いている理由などを厳しく指摘したうえで、読めばなるほ
どと思わせる、インパクトのある具体性を求めたかったですね。

最終回、受講して(読んで)価値のある<経済教室>を期待したいと思います。

 

 

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