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自営業は、永遠に不滅です:『ローカル志向の時代』から(16)

ローカル志向の時代  働き方、産業、経済を考えるヒント
(松永桂子さん著・2015/11/20刊・光文社新書)
「ローカル」を軸にして、起業・自営・自立・産業、働くこと・職業・・・。
本書を紹介して、関連するカテゴリー内の課題を考えていくシリーズ。

第2章「「新たな自営」とローカル性の深まり」に入っています。
第1回(13回):職業選択の自由が本来意味するモノ。そして起業・自営業
第2回(14回):若い世代の起業意識と起業行動は高まるか?
第3回(15回):多様な業種・業態の組み合わせとしての起業・自営の時代

今回は、第4回です。

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2-1 古くて新しい自営業(4)

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前近代的とされた自営業や小企業

自営業は英語では self employment で、直訳すると自身を雇用するという意味に
なります。
終身雇用制度が崩壊し、非正規雇用が増え、ワーク・ライフ・バランスが重視さ
れるようになった昨今では、新たな働き方が選択肢の1つとして浮上しています。

しかし、かつての自営業や生業は不安定就労で、都市下層の存在とされていまし
た。
戦前、たとえば大阪市では、この都市下層や都市雑業について膨大な調査がなさ
れ、その記録は現在でも残っています。
戦前の都市問題は劣悪な労働環境である雑業の存在、そこで働く都市下層の住宅
問題の解決が大きな焦点でした。

戦後、高度成長期に入ると、雇用の近代化が進みました。
つまり、起業は大企業化し、サラリーマンが増えた時代でもありました。
そして、その過程で、自営業や小規模企業は減少するはずだという見方が大勢を
占めました。

当時、社会格差といえば、二重構造問題のことを指しました。
大企業など規模の大きな企業と比べて、自営業や小規模な商工業は低賃金、低生
産性とされ、社会問題の一部と認識されていたのです。
こうした商工業の不利是正をを補うために国に中小企業庁が設置され、中小企業
政策が講じられてきました。

このような歴史的な経緯は、規模の小さな経済主体の生産性を向上させ、近代化
させるといった農業政策と政策の理念が共通しています。

しかしながら、1970年頃に不思議な現象が起こりました。
高度経済成長期、とくに昭和30年代には一貫して減少し続けていた自営業・小規
模企業層ですが、この時期に再び増加したのです。
この時期は労働力が不足していた状態でしたから、通常で考えれば雇用者が増加
することになります。
企業が成長し、雇用も吸収し、さらに企業は大きくなっていく時代なので当然の
ことですが、ここで注目すべきは雇用だけでなく、自営業・小規模企業層も増加
したという点です。
先にも少し触れたように、経済成長のプロセスにおいては自営業・小規模企業層
は減ると予測されていました。
賃金は大企業に雇用されている方が高く、年功序列・終身雇用のもとで、右肩上
がりで伸びている時代だったからです。
この一見不可解と思える現象について、研究者たちは論争を繰り広げることにな
ります。

ここで、ふたつの見解が現れました。
ひとつは、自動車工業や機械工業では、「再下請」の仕事が増えているから、小
零細企業が増加したという見方。
もうひとつは、これまでとはまったく異なる新しいタイプの起業が現れていると
いう見解です。
セルフエンプロイメントからセルフマネジメントへ、職人からテクノストラク
ュアが台頭してきているといった指摘がされました。

そして、こうした新しい環境に適用しうる新しいタイプの企業の参入により、大
企業と中小企業の格差、二重構造も解消されるとしたのです。
このとき、ベンチャー企業や中堅企業という新たな概念が誕生しました。
実際、のちに、この時期の開業の増加は第1次ベンチャーブームと呼ばれるよう
になったのです。

いずれの見解も、新規開業者への実態調査から明らかにされたことですが、いま
から振り返ると、双方の要素があったことは否定できません。
しかし、新たなタイプの企業とされたベンチャー企業が同時期に集中的に生まれ
たことは、画一的な大量生産、大量消費をもとにした経済システムからの転換期
と呼べるものでした。
新規開業した企業は、新たな需要を創造する主体でもあるからです。

その後、自営業や小規模企業も含めた中小企業は、一方では、給与、生産性、付
加価値をみても大企業と差がある主体とされながらも、他方では経済の活力を生
み出す主体と評価される側面を持ちました。

現在の格差問題は、正規か非正規かの雇用形態の格差、世代間格差、教育格差な
どに焦点が当たっていますが、高度成長期にみる格差問題は、大企業と中小企業、
企業規模別の格差是正が焦点とされてきたのです。

なお、中小企業の研究者の間では、中小企業は社会問題を抱える存在なのか、あ
るいは社会経済にとって貢献する存在なのか、現在も議論が交わされるテーマで
すが、これによって中小企業をみる見方が変わり、求める政策も違ったものにな
ります。
しかしながら、実際には対立概念で捉えることはできません。

いずれにせよ、日本は近代化、経済成長の過程で小規模企業層・自営業層が減
するとされたにもかかわらず、現在でも経済の根底を支えているのは事実です。

むしろ、人口減少、超高齢化において、顔が見える存在である自営業や小規模企
業は、社会的な役割を増しててきていると捉えることができます。

修理工場

次回から、「2-2 自営の人びとが集う場」に入ります。

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上に述べられた時期の多くの期間は、1975年生まれの松永さんにとっては、実際
に見聞きし、肌で感じた時代ではなく、ほほんど文献レベルからの引用になりま
す。

だから致し方ない、というわけでもなく、また、当時の論争をその時代に生きて
いた私自身の記憶にもないので(ということは、それほど論争のテーマにはなっ
ていなかった?)あまり突っ込んで論じる必要はないのですが・・・。

学者・研究者はどうしても二元論で捉える図式を作りだす傾向があることは間違
いないですね。
自営業・小規模企業層が、社会経済に貢献しているか問題の存在かなどと論じる
研究者の方が、社会経済に貢献できるのか、問題的存在なのか、と論じるほうが
役に立つかもしれない・・・。

要は、貢献する事業者もいれば、問題となる事業者もいるわけで、それは今日で
も種々問題化するネタには欠かない大企業とて同じです。

それから、自営業・小規模事業者がみな零細かと言うとそんなことはありません。
地方で自営する商業者や飲食業者は、規模は大きくなくても、家賃が不要な事業
を営み、それなりに資産を構築し、次世代に継承していく形をとった方々も実は
多いのです。

視点が外れますが、実は、こうした自営・小規模事業者も、国民年金ではなく、
厚生年金保保険に入り、法定福利費も負担すべきであったと私は考えています。
いまからでもそうすべき、そうあるべきと思っています。

元に話を戻して・・・。
今回の論述も、途中から商店、いや焦点がずれてきて、大企業対中小企業論にな
ってしまいました。
自営業の本質に触れずに、古い、新しいという論点でまとめようとしたのですが、
最後の文にあるように、あまりそうしたことにこだわって考えることにさしたる
意味はないのです。

農業と共通点を持つともされていますが、補助金・交付金付けで努力を怠ってき
た農業とは、商店・飲食店などの自営業はまったく異なります。
それらの多くの自営業主は、1970年代から席巻したチェーンストア業態に、多く
が廃業を余儀なくされました。
それでも、生きながらえている自営業者、その後も、自ら独立して店舗などを構
え成功している自営業者も存在します。

(ただ、昨今の政府のバラマキ政策で、地方消費の活性化のためにと実施された
「プレミアム商品券」などに充当する「地方創生交付金」などは、その変種では
ありますが・・・。その程度でどうにかなるものではない、馬鹿げた政策です。
そういうモノを当てにすると、かつての農業と同じになってしまいます。)

自営業はもちろん、小売業や飲食業だけではありません。
文中にあるベンチャー企業でイメージされるIT事業や製造業なども当然含みます。
自分の得意な技術・技能を活用して、まずは小さく業を起こす・・・。

自営業は、永遠に不滅です。
人間の生きていく営み、自らの生計を立てていくための営みとして、なくなるこ
とはありません。
生産性の高低は、あまり関係はありません。
その営みを持続・継続していけるかどうか・・・。
納税義務も果たしながら・・・。
それは、事業業者の意欲・能力・意思など彼らの一存に掛かっているものであり、
政治が、役所が、経済学者がどうこうというものでは本来ないのです。
だからこそ、「自営」なのです。

若い世代。
ぜひ、その「自営」の世界へ!
そこからどうするかも、自分で決めていくわけです。

次回から、次節「2-2 自営の人びとが集う場」です。

 

カフェ3
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<本シリーズの視点>
さまざまな起業・自営の可能性を支持する機能・ツールとして、インタ

ーネットやIT技術を活用することが、安価に、簡単に可能になり、それ
が若い世代の発想や行動の自由さ・柔軟性を引き出す大きな力・武器と
なっている・・・。
そう考えます。

ホンダもソニーも、元々は、好奇心のかたまりだった若い世代が町工場
から始めたモノ、コト・・・。
ことの本質は、今も昔も変わらないと思います。

違いは、サラリーマン化した社会においては、あたかも、企業や組織な
どへの就職先を探すことが「職業選択の自由」であるかのように錯覚し、
思い込んでいた時代から、仕事、働くこととは?という本質・根源を考
えるべき時代に変化が必要であること・・・。
そう発想と行動の転換を図るべき!

本書を全面的に支持するという視点で、このシリーズを位置付けてはい
ません。

職業選択の自由は、就職の自由、勤務先や職種を選択する自由のみを指
すのではなく、生き方の自由を基礎にした、働き方、仕事、起業・自営
など、広く含めた選択の自由を意味する。

ローカル志向の時代  働き方、産業、経済を考えるヒント』という
タイトルとその論考に、そうした意味・ヒント、事例が多く示されてい
るからのシリーズです。

8

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<投稿ブログリスト>
【まえがき】編
第1回:自立・自営と暮らし・働きの場としてのローカル、その多様性考察
第2回:個人と社会との関係性の構築と一体の地方創生
「第1章 場所のフラット化」編
第3回:江津市駅前商店街再生の狼煙を上げた空き店舗活用「52Bar」2012年オープン
第4回:旧桜江町の定住対策も江津市再生の基盤に
第5回:地域再生は、新たな生態系創り。担う30歳代世代
第6回:都市生活・就労者の経験が生きる地域振興と起業。そしてローカルの意味
第7回:変わらぬ価値観を持つ人も存在する。変わるのは行動様式
第8回:『電通総研「若者×働く」意識調査』から考える若者の働き方
第9回:クリエイティブ・クラスの多様性が招く働き方・暮らし方の多様性
第10回:東京でなくてもよいローカルと東京であるべきというローカル
第11回:神山町グリーンバレーのような活動が各地で多様に展開されるローカル
第12回:可視化できないコト、モノの価値化偏重は危ういローカル

f2

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-『ローカル志向の時代  働き方、産業、経済を考えるヒント』構成-

【まえがき】
<第1章  場所のフラット化>
1-1 古くて新しい商店街
1-2 消費社会の変容と働き方の変化
<第2章 「新たな自営」とローカル性の深まり>
2-1 古くて新しい自営業
2-2 自営の人びとが集う場
2-3 経済性と互酬性のはざまで
<第3章  進化する都市のものづくり>
3-1 中小企業の連携の深まり
3-2 新たな協業のかたち
<第4章  変わる地場産業とまちづくり>
4-1 デザイン力を高める地場産業
4-2 ものづくりとまちづくり
4-3 外部者からみえる地域像
<第5章  センスが問われる地域経営>
5-1 小さな町の地域産業政策
5-2「価値創造」の場としての地域
5-3「共感」を価値化する社会的投資
<終章  失われた20年と個人主義の時代>
【あとがき】

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【松永桂子さんプロフィール】
1975年京都市生まれ。大阪市立大学大学院創造都市研究科准教授。

同大学院経済学研究科後期博士課程単位取得退学、博士(経済学)。
日本学術振興会特別研究員、島根県立大学准教授などを経て現職。
専門は地域産業論、地域社会経済。
現場でのヒアリングや対話を通して、地域産業や地域経済のあり
方を研究。
著書/超高齢社会の自立と経済について論じた『創造的地域社会』
(新評論)など。

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