2016/2/2から日経で5回にわたって掲載された特集「食と農 平成の開国」
を紹介しています。
第1回:コメの戦いは日米のみならず日豪などグローバルレベル化
第2回:緑茶・富有柿、和食ブームと共にジャパンブランド農産物輸出、成長期に
第3回:物流・国際クール宅急便が切り拓く、農水産物のグローバルビジネス化
第4回:ばらまき政策からの脱却の好機にできるかTPP?やはりムリ?
今回は、最終回です。
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(その5):和牛VS.ワギュー 市場開拓に検疫の壁(2016/2/7付)
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香港の高級スーパーに2つの「ワギュー」が並ぶ。
山形牛は100グラム250香港ドル(約3800円)。
「しゃぶしゃぶには山形牛の方がおいしいけど、ステーキならこっちの
ワギューも悪くないよ」。
店員が紹介したもう一つのワギューはオーストラリア産。
160香港ドルと3割超安い。
ワギューの種は日本が起源だとの言い分だ。
<大牧場に6500頭>
豪南東部マウント・ガンビエ。
東京都千代田区の約3倍の広さを持つ大牧場で6500頭のワギューが草を
はむ。
スコット・デブルイン(38歳)は餌にチョコレートを混ぜて「霜降り」
を施す手法も編み出した。
「最高のステーキを食べたい消費者の欲求に応える」とデブルインは胸
を張る。
環太平洋経済連携協定(TPP)ではコメや牛肉など関税交渉に注目が
集まった。
しかし、TPPのよりユニークな点は投資、サービス、知的財産権など
幅広い分野で新しい国際ルールを示した点にある。
日本の農産品輸出にとっての「壁」も関税だけではない。
ワギューのような国内産と近いブランド戦略こそ本当の脅威となる。
TPPをうまく生かせば、難敵にも対抗できる。
農林水産省は昨年末、農産品の地域ブランドを守る地理的表示(GI)
の第1弾として「神戸ビーフ」「夕張メロン」など7品目を登録した。
TPP参加国はGIに認定した特産品をお互い保護しやすくする。
例えば神戸ビーフの偽物が海外で出回れば、各国当局が取り締まる方向
で検討する。
神戸肉流通推進協議会の谷元哲則事務局長は「海外に売り込みやすくな
る」と期待する。
関税をなくせば自由に輸出できる、と考えるのは早計。
TPP合意によってチリやペルー向け牛肉の関税は発効11年目までにな
くなる。
しかし、日本と両国との間には港や空港で海外の病害虫の侵入などを水
際で食い止める検疫の合意がない。
関税ゼロでも牛肉は輸出できない仕組みだ。
検疫や通関手続きは農産品輸出でときに高い「非関税障壁」となる。
TPP大筋合意から約2週間後の10月半ば。
米国に輸出した高級和牛約600キログラムが突然、米ロサンゼルス空港の
保管庫で10日間の足止めを食らった。
米検疫所から輸出に必要な衛生証明書が不完全と指摘されたためだ。
結局、米担当者の勘違いが判明して輸出は無事再開できたが、日本側には
大きな不満が残った。
TPPは検疫についても「貿易に不当な障害をもたらすことがないように
する」と規定する。
ブランド保護や検疫、通関手続きを含む幅広い経済ルールの調和――。
TPPは日本の食と農に関税の自由化にとどまらない利益をもたらす期待
がある。
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もう当たり前になった「ブランド戦略」。
TPPでは、このブランドも大きな戦略課題となること、意外に盲点です。
(アメリカ民主党クリントン大統領候補がTPP反対を唱えており、先行き
がいま一つすっきりしないのが、気にはなりますが・・・)
検疫問題も非関税障壁の大きな課題。
当然、農産物の輸出額1兆円をまずは目指す日本にとっても、です。
畜産業は、一般の農業よりも大きな弱点である日本。
霜降り肉など、従来欧米では人気がなかったものが、和食人気で受け入れ
られるようになると、供給力自体ないのが弱点に。
文中の検疫問題は、それ以前の問題なので、寒い!です。
ということで、これも文中にあるように、比較にならない大規模畜産業を
営む海外勢が品種改良に取り組めば、あっという間に、ブランド和牛の海
外展開と拡大のチャンスを逃がしてしまう・・・。
だからこそ今から、差別化可能な、競争力を保てるブランド戦略を急ぐ。
とはいっても、先述したように、ある程度の供給力もなければ、他者・他
国が競争レベルに達したブランドを育成できた時点で、立場は逆転する・・・。
そういう点で、やはりスピードが伴わないとまずいわけです。
そのためにも農政上の国内の規制の緩和・撤廃がスピード感をもって進め
られることが最優先課題といえます。
2016/2/24 付日経で
「農業法人への過半出資、一部特区に限定案 自民党内で浮上」と題した
以下の記事を見ました。
政府が国家戦略特区での実現を目指す農業生産法人への企業の出資比率の
過半引き上げについて、自民党・農林水産省内で「(特区の)兵庫県養父市
に限る」案が浮上していることが23日分かった。
同じ特区の新潟市や愛知県は対象外とする。
企業の耕作放棄などを懸念する農家に配慮したものだが、骨抜きとの批判
もあり政府との調整は難航しそうだ。
まだこんなレベルのことをやっているのですから、本当に困ったものです。
このシリーズは、今回で終わります。
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当ブログサイト<大野晴夫.com>に『GDP4%の日本農業は自動車産業を超える』
(窪田新之助氏著・2015/12/17刊)を紹介しながら、日本の農業のこれから
の可能性・期待について考えるシリーズがあります。
はじめに
第1章 農業を殺した「戦犯」たち
第2章 世界5位を誇ったコメの実力
第3章 大進化するコメ農業の可能性
第4章 輸出産業となった日本農業
第5章 ロボットと農業参入者のシナジー
第6章 農業の「多面的機能」で世界に
おわりに
という構成の本書からのこれまでの投稿は
【はじめに】
第1回:自動車産業を超える農業の可能性、その根拠は?
【第1章 農業を殺した「戦犯」たち】
第2回:大規模稲作農家の離農という矛盾と米価との関係
第3回:減反・米価政策等農業保護政策が招いた稲作農業の経営実態
第4回:重労働、高齢化に抗することができない農業の弱点
第5回:70歳が農業就業者の定年?2017年大量離農予測の根拠
第6回:農家の減少と高齢化をどう捉えるか
です。
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