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農業

農家の総兼業化と低い労働生産性を招いた原因:『GDP4%の日本農業は自動車産業を超える』から(12)

GDP4%の日本農業は自動車産業を超える』(窪田新之助氏著・2015/12/17刊)
本書を紹介し、日本農業のこれからの可能性・期待について考えるシリーズ。

【はじめに】
第1回:自動車産業を超える農業の可能性、その根拠は?
【第1章 農業を殺した「戦犯」たち】
第2回:大規模稲作農家の離農という矛盾と米価との関係
第3回:減反・米価政策等農業保護政策が招いた稲作農業の経営実態
第4回:重労働、高齢化に抗することができない農業の弱点
第5回:70歳が農業就業者の定年?2017年大量離農予測の根拠
第6回:農家の減少と高齢化をどう捉えるか
第7回:「農家」「農業」とは?新規農業就農者の多くが60歳以上という現実
第8回:農家全体の7%で農産物の全販売金額の6割を生み出す農業
第9回:「青年就農給付金」制度の運用は、非農業出身者を重点にすべき
第10回:耕作放棄地は、不要な農地造成政策のツケ
第11回:耕作放棄地再生の目的・成果評価の見える化と農政改革

今回は、第12回です。

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 第1章 農業を殺した「戦犯」たち(11)
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「農家の総兼業化」が進んだ原因

 農業問題の本質は、農家が減少することでもなければ、耕作放棄地が増加する
ことでもない。
それは、現在に至るまで圧倒的な数にのぼる零細な農家を残留させてきたこと
と、そうした状況をつくってしまった戦後農政の失策にある。

そのせいで、構造調整が遅れてしまった。
 結果的に、最も損をしてきたのは、本気で農業をやりたい農家だ。
 農地を集積したくても、兼業農家が農地を手放さない。
 需要を見据えて農産物を販売したくても、国が介入してくる。
 農業が当たり前の産業にならないようにしてきたことこそ、戦後農政の最大の
罪なのである。

 こうした指摘は、実は半世紀以上前にすでに十二分になされていた。
 1956年度の経済白書は「もはや戦後ではない」とうたったころ、いまと同じよ
うに日本の農業は「曲がり角にある」といわれた。
 というのも、この少し前からコメの生産が安定するようになり、農政の中心
題は「食糧増産」ではなくなりつつあったからだ。

 代わって躍り出てきたのが「労働生産性の低さ」である。

 このころ日本は高度経済成長期に突入しており、農工間の所得格差が顕著にな
ってきた。
 たとえば1960年における農業労働時間当たりの農業所得を見ると、500人以上
の従業員を抱える大手製造業と比べると40%ほどに過ぎない。
 これでは、農業をやっているだけでは食えない

 こうした問題を受けて1961年に誕生したのが農業基本法である。
 名前の通り、農業政策の基本方針となるこの法律は、農業の生産性を向上され
ることで、農家の所得を増大させることを最大の目標とした。
 国はその目標の達成に向けて、基盤整備による農地の大区画化に加え、農作業
の気秋かを進め、経営の合理化を図っていった。

 ただ、これが「農家の総兼業化」を生むことになる。
 稲作を中心に労働時間が減った農家は離農するのではなく、兼業農家となって
いったのだ。
 ちょうどこのころ、地方に工場が相次いで建てられ、多くの働き手を必要とし
ていた。
 加えて、自動車やオートバイが普及したことも農家の兼業化に拍車をかけた。
 農家は土日祝日を使って農業を続けていく。
 あるいは、働きに出ている世帯主に代わって、その両親や嫁が田畑を耕した。
 「おじいちゃん、おばあちゃん、おかあちゃん」が担う「三ちゃん農業」の登
場だ。
 その結果、農業就業人口は減ったものの、農家数は期待したほどには減らなか
った。
 兼業農家は戦後の農地解放でもらい受けた1ヘクタールの農地を手放さない。
 そのために専業農家は農地を思うように広げられなかったのだ。

 1968年に出版された『日本農業の変革過程』(東畑精一編・岩波書店)のなか
で、大内力(1918~2009)東京大学名誉教授(経済学者)は、戦後20年の農業を
(上記の観点から)振り返っている。

(大内氏の文章は省略しました。)

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※次項に続きます

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  1961年農業基本法自体が、兼業農家を増えることを想定していたのか、そう
ではなかったのか、は、ここではなんとなく曖昧なままなのが少し気になります。

まあ、農業では食っていけなかったものが、他に職を得ることで、生活の安定
を手に入れ、農の方では、自給自足が保証され、余剰の農産物は販売して収入に
なる。
このことで、農家は、一般的なサラリーマン家庭以上の豊かさを手に入れるこ
とになります。
土地持ちで、食費はあまりかからない、ダブルインカム、農作業で健康維持、
などの強みがある・・・。
農地にかかる税制のメリットを享受できたこともその要素のひとつ・・・。

その安定と豊かさは、地方の保守層となって、自民党の安定基盤を長く形成し
ていることと結びついているのは、知られているとおりですね。
農業改革への抵抗と保守性の根源は、ここにあるわけです。

自給自足レベルでの農業では、「労働生産性」という基準・物差しは無用です。
本来、産業という範疇には入らないもの、入れてはいけないものと言えるので
すが・・・。

しかし、その農業は高齢化が進み、担い手不足という現状・・・。
もう一度、しかし、として、これまでの強みを再確認し、新たな強みをつけて
いくべき時代・時期にいま入っているわけです。

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次回は、 <農業人口の削減で成長した先進国> です。

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-『GDP4%の日本農業は自動車産業を超える』構成-

はじめに
第1章 農業を殺した「戦犯」たち
第2章 世界5位を誇ったコメの実力
第3章 大進化するコメ農業の可能性
第4章 輸出産業となった日本農業
第5章 ロボットと農業参入者のシナジー
第6章 農業の「多面的機能」で世界に
おわりに 

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【著者・窪田新之助氏プロフィール】
1978年生。明治大学文学部卒。
日本農業新聞入社。以後8年間、年間100日ほど国内外を取材。
農業政策、農業ビジネス、農村社会の現場をレポート。
2012年フリーに。
2014年、米国国務省の「インターナショナル・ビジター・
リーダーシップ・プログラム」に招待され、アメリカの農業の
現場を視察。

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