交差点4

地方・観光

大災害被災時に考えさせられる住民と自治体との関係の本質:『地方創生の正体』から(14)

地方創生の正体: なぜ地域政策は失敗するのか
山下祐介氏・金井利之氏共著・2015/10/10刊)を紹介し、地方創生・
地方再生問題を基本から考えるシリーズ。

「第4章 市民にとって、国家にとって自治体とは何か」
第1回(通算第13回)住民・国民としての私的個人と自治体・行政・国との関係

今回は、第2回(通算第14回)です。

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1.多元的バランス構造の意義(2)

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住民という概念

(山下)
自治体は住民のために存在するという建前は、当然のように見えても実は非常
にもろいものです。
 というのも、そもそも住民とは何かが極めて曖昧だからです。
 住民とは何かという問いに対して、行政学ではどのように答えるんですか。

(金井)
 日常的な時間が流れているときには、その問いをなんとなくやり過ごすことが
できました。
 たとえば富岡町の住民は富岡町民、浪江町の住民は浪江町民であるというとい
うように。
 しかし先の苛酷事故で、域内の全員が超長期広域避難せざるを得ない状況にな
ったとき、住民という概念がたちまち不明瞭になってしまいました。

(山下)
 町役場に住民票を置く人が住民であり、何らかの財源で彼らに行政サービスを
行う組織集団が自治体である。
 国は国民全体からの税収を地方に配分しているため、自治体は住民からの税収
のみで財源をまかなっているわけではない。
 自治による行政サービスは、国との依存関係があって初めて成立する。
 そこでは居住領域に従って住民票を置いている者のみが住民とみなされ、自治
体を経由して国からのサービスを受け取る。
 行政学で言う自治体とはそのような形のものとして理解していいんでしょうか
(笑)。

(金井)
 住民票によって住民を固定するのは、一応の法制度的な仕分けではありますが、
突き詰めていくと必ずしもそうではないのです。
 他の地域から文京区に通勤・通学している場合、住民票がなくても、実際上の
文京区民・東京都民として何らかの自治体からのサービスを受けます
 たとえば、安全を守ってもらうのか、取り締まりを受けるのか、という見方は
さておき、通勤・通学者は東京都(警視庁)の警察サービスを受けるわけです。
 住民票を置いている者のみが住民と見なされているわけではないのです。

 また国は国民のみならず、外国人のためにも仕事をしています。
 たとえば、外国人が安全に生活できるように治安を守るとか、そうしたこと
しています。

 国や自治体が、実は誰のために仕事をしているのかをはっきり言うことは難し
いのです。
 普通の自治体の場合、そんな人の出入りが激しいわけではないから、住民とい
う概念について比較的ぼんやり考えています。
 しかし原子力災害のために超長期広域避難を余儀なくされると、富岡町や浪江
町は誰のために仕事をしているのかよくわからなくなってきます。

 今までのように住民という概念を漠然と考え、普通の仕事をこなしているぶん
には何の問題もなかったのですが、いざ全町避難となると富岡町や浪江町という
自治体は何をすべきなのか、混乱しかねません。
 そうなると、他に頼るべきアイデアがないので、必然的に昔の考え方が頭をも
たげてきます。
 つまり、今までのルーティーンに従って、国策企業の協力会社のために仕事を
するとか、国・県の公共事業をやるというパターンに戻っていきます。
 それは常日頃から、誰のために仕事をしているのかを、突き詰めて考えてこな
かったからです。
 全国の他の自治体も同じことで、誰のために仕事をしているのか、よくわから
ない状態がずっと続いているのです。
 だから、いつの間にか、住民のためというよりも、東京の為政者や事業者のた
めに自治体が仕事をするようになるわけです。 

受付0

 

※次項に続きます。

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東日本大震災による福島第一原子力発電所事故。
その事故から、自治体と住民とのありかたを、根本的に考え直す必要が生じた。
そして、そこでの問題に明確な解を提示できず、長く引きづっているこの間に
熊本地震が発生し、今なお、余震・再発の危険性が継続してある・・・。

ようやく仮設住宅の建設が始まった状況で、完成は1カ月後とか。
それとても、避難生活を強いられる人々全員が入居できるわけではない。

復興・復旧における住民としての権利も、国と自治体の対応能力のレベルで著
しく制約されており、先が見えない状況が、当分続きそうです。

全国の自治体間の支援体制は、こうした災害の経験を踏まえることで、拡充さ
れていくのでしょうが、従来の、普段あまり意識する必要がなかった、住民と自
治体との関係の強さと具体性が、厳しい状況が続けば続くほど、靄、霞がかかっ
て、意識から遠のいていくのかもしれません。

自分の拠り所は、どこか、何だったのか・・・。

災害が住民と自治体との関係を再確認する機会となるか?
なかなか前向きな議論にはならないのでは、と悲観的になってしまいます。
結局、国の方を意識せざるを得ない・・・。

特に災害規模・レベルが大きければ大きいほど、そうなります。
しかし、国の主体とか、国の姿とか、国の当事者とかは、なかなか見える化
できないため、あるいは現実的にその姿を現さないため、距離感は縮まりません。
結局、自治体が国の意向を受けて、代執行機関として動くことになるため、
自治体への親近感も薄れ、疎外感の方が膨らんでくることになりそうです。

これはやはり憂うべきコトです。
自治体が財源を持ち、主体として住民に、深く、緊密に結びついている地方
自治。
災害の経験を活かすという課題の中で、地方自治改革、行政改革を最優先と
すべきと、強く感じた次第です。

 

地震4
次回、<権力は分けておく> に続きます。

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【『地方創生の正体: なぜ地域政策は失敗するのか』ブログラインアップ】
「第1章 「国-自治体-市民」の構造を問いなおす」
第1回:地方自治のあり方を基本から考えてみる機会に!
第2回:「地方創生」という山を登れば、何が見える、何がある?
第3回:国が掲げる地方創生は、人口増減で勝ち負けが決まる相撲土俵?
第4回:愚の骨頂のプレミアム付商品券は国の無能の証!ばら撒き政策を拒否する地方自治への道
第5回:真の自治・自主・自立のために国とどう付き合うか?
第6回:国、マスコミ、学者を当てにせず自治体独自のあり方を探る
第7回:数値責任をめぐる国と地方自治体との関係のあり方
第8回:地方自治体が国の「ヤレヤレ詐欺」に遭わないために
第9回:地方創生と党利党略・政局との関係から考えるべき地方政治・行政のあり方
第10回:人口減少をチャンスと考えて、新しい地域価値基準を創り上げる
第11回:二重住民票制度が、人口減少社会の地方創生を推し進める
第12回:自治体主導で進める「ふるさと住民票」による二重住民票制と地方創生

Réseau social 3D couleurs
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《本シリーズの動機と目的》
もともと、増田レポートと一連の『地方消滅』や『東京消滅』論などには
かなりの違和感を持ち、それに批判的な書に、より強い関心を持っています。
昨年、そのタイトルに惹かれて読んだ
地方消滅の罠: 「増田レポート」と人口減少社会の正体
(山下祐介氏著・2014/12/10刊)は、いい著書とは思いましたが、その独善・
独断性・ツッパリ感に多少の違和感があり、このブログでは紹介せずじまいに
なっていました。

その後、『ローカル志向の時代』(松永桂子さん著・2015/11/20刊)を読み、
紹介するシリーズを開始。

そして、この『地方創生の正体: なぜ地域政策は失敗するのか
山下祐介氏・金井利之氏共著・2015/10/10刊)に至りました。
ミクロの地方再生の成功事例・失敗事例をかいつまんでみていくことにも
意義・意味はあると思いますが、本書のように、マクロから見ていく必要
もあると感じてのことです。

そうするうち、地方創生・再生を語る時に、地方自治体・地方行政・地方政治
のあり方も変革していく必要があるという思いが強くなり、
地方議員の逆襲』(佐々木信夫氏著・2016/3/16刊)シリーズを並行して始
めています。

 

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