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政治

「現状維持」にはらむ不安を払拭すべき日本の政治の在り方:参院選からの田中直毅氏の提言

2016/7/15から3回にわたって、日経が【参院選をどう読み解くか】と題した
3人の専門家からの提言を掲載しました。

1回目は、わたしが、日本の良識・良心を体現する人物の一人と見ている
田中直毅・国際公共政策研究センター理事長による
「「現状維持」に2つの不安、社会保障持続と対中政策」と題した小論。
少し長いですが、全文転載し、紹介させて頂きます。

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参議院選挙は安倍晋三首相にとって4回連続の国政選挙勝利となった。
 有権者の選択の背景にあったものを挙げれば、まず国内面では、足元での景気
対策と環太平洋経済連携協定(TPP)推進による日本経済にとっての市場の広
域化期待があったといえる。
 とりわけTPP推進への国内的制約の克服は、安倍政権でなければ進められな
かった。

<厳しい国際環境が現状維持判断もたらす>

 政権支持に回った有権者にとっては、国際社会への日本の関与を巡る基本部分
での不安もあった。
 中国や韓国との摩擦が高まる中で、国内での政権批判はためらわざるを得ない
という側面もある。
 筆者は北京やソウルでの研究者集会で「安倍首相の支援勢力は間違いなくあな
た方の指導者たちにより強化された」と指摘してきた。
 こうした厳しい現実が有権者の選択の拘束条件となっているのも事実だ。

 さらに、米大統領選共和党候補のドナルド・トランプ氏の登場や英国民投票で
の欧州連合(EU)離脱の選択という国際的な政治環境の激変への「日本の備
え」として、現状維持へと傾くきらいがあったことも見逃せない。

 米オバマ政権の下では、アジア地域に米国の関与の重点を移すというリバラン
ス政策がとられてきた。
 ところがトランプ旋風で「米国第一主義」の台頭が確認された。
 国際的に「現状維持」が揺らぐ中で、日本の政権構造の転換を期すという覚悟
は広がらない。

 EUの混迷の明確な始まりも日本での「現状維持」機運につながった可能性が
高い。
 そもそも日本にとってEUは地域統合モデルの模範であり続けた。
 主要国の中で日本だけが、近隣諸国との間で政治的、社会的統合はもちろん、
経済統合さえ目指すことができないできた。
 世界の潮流に乗れないと評されれば、国際社会の中で日本の異質性だけが際立
つ可能性もあった。
 しかしEUの状況は一変した。

 日本にとっては「現状維持」がそれなりの解を形成すると受け止めた有権者も
少なくないであろう。
 安倍政権にとっては、政権信任に有利な風が吹いたといえよう。

 それでは「現状維持」は日本政治の選択肢として中長期的な意味を持つのか。
 これまでの路線の持続性を根底から危うくする要因は数多い。

^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
以下では、国内での社会保険会計の持続性と、国際社会との連携に関わる「日
本問題」の2つを取り上げ、日本の政治空間に求められる新基準を展望する。
 日本の将来世代が間違いなく抱え込む課題について、できるだけ早く政治的に
踏み込むことが必要だ。

<皆年金・皆保険の破綻回避へ政治は動け>

 岸信介内閣の下で準備された国民皆年金・皆保険のシステムは、世界に誇るべ
き課題解決能力だった。
 その後の日本経済の高度成長もあり「一億総中流」という世界にもまれな市民
生活が実現した。
 しかし今後の日本社会展望では社会保険会計のもろさから目をそらすことはできない。

 社会保険を拠出側からみれば、若年層を中心とする非正規雇用の望まない増大
という現実がある。
 高齢者を現役世代が支える構図においては、かつての騎馬戦型が次第に肩車型
の1対1に近づく
 しかしこれはただ単に、世代間の人数で割り算をしただけの結果にすぎない。
 注意すべきは、肩車に高齢者を乗せる現役世代の足腰が「一億総中流」の時代
とは一変したことだ。

 国民健康保険の拠出側にもこうした厳しい現実が反映する。
 中小企業従事者や退職者が主な対象の国民健康保険では、医療保険給付費と保
険料拠出の差は拡大せざるを得ない。
 国民健康保険の赤字補填のための税金投入をできるだけ避けたい政府は、大企
業の会社員が加入する健康保険組合連合会に負担を求め続けている
 このため健保組合に属する被保険者の拠出額は、所得比で10%に近づくケース
が増えている。
 多少の賃金引き上げがあっても、税と社会保険料拠出の控除後の可処分所得は
増えず、足元での消費支出停滞に結びついている

 既に国民年金給付額の半分には税金を投入している
 医療保険料拠出の所得比の引き上げにも限度がある。
 結局、社会保障制度の持続のためには税金投入の拡大は避けられないとの見方
が増える。

 社会福祉支出が増える分野としては年金や医療費以外にも介護や子育て支援が
ある
 こうした全体のバランスの中で医療保険給付を考えれば、国民が納得する範囲
に保険給付を制限する必要が生じる。

 国民皆年金・皆保険は半世紀以上にわたり国民一人ひとりにとっての安全網
だった。
 もしこれが破綻すれば、これまでの日本ではなくなる
 医療保険の支出側についても、制度の持続性維持という視点からの点検が不可
欠だ。
 ここでは「大きい政府」か「小さい政府」かが問われるわけではない。
 誰も皆年金・皆保険制度の破綻を望まない以上、いわば「賢い政府」の活動原
則を求めるという有権者の行動を導き出すことが必要だ

<尖閣問題が軍事紛争招かぬ外交的対応を>

 将来に向けた懸け橋が必要なもう一つの課題は、日本の自律性確保のための外
交安全保障政策の確立だ。
 既に国際秩序のほころびは世界全域を覆っている。
 中東の諸紛争を根源とするテロ行為は、われわれの足元を揺るがす。
 EUが域内に抱え込んだ問題の深刻さも加わった。

 仲裁裁判所の判決を受け入れず、南シナ海の航行の自由を脅かす中国の一方的
行為は「中国問題」を引き起こしている。
 そして米国もまた、国際的関与の基本政策を巡り、国内的な同意を取り付ける
のが難しくなるという「米国問題」を抱え込む。

 こうした中で「日本問題」が欧米の有識者を中心に提起されている。
 すなわち沖縄県・尖閣諸島を巡る日中関係の制御に関わる問題だ。
 定住人口もない岩礁を巡る紛争を契機として、米国と中国の間で軍事紛争が生
じる可能性をどう考えるのか、という問題といってもよい。

 もともとは尖閣諸島防衛への米国関与の方針が確認されれば、中国の行動への
抑止効果の発揮が期待された。
 しかし今日では抑止効果があるかどうかについて不確実性が指摘される。
 軍事紛争の拡大を未然に防ぐ日本の外交上の工夫はあるのか、という問題提起
といってもよい。
 紛争の種が世界中に広がる中で、日本の主体性に基づく問題封じ込めが重要と
いう主張だ。

 ここではただ単に日米同盟を持ち出すだけでは、本来の解につながらないとい
う見方が浮上している。
 同盟は究極の状況における安全の最終的な担保と理解すべきである。
 試すようなものではない。

^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

 われわれは日本の政治空間の充実を早急に図らねばならない
社会保障と税の一体改革」は第1党と第2党を中心に、将来世代への現役世代
の真剣な対応の一形態として提示された。
 これを憲政の常道として、積み重ねを重んじる政治空間づくりの基本に置くべ
きだ。
 また財政規律の確立を通じて、今後想定される危機への対抗力とすべきだ

 さらに国際的な秩序形成への具体的な貢献が必要だ。
 まずはディーセントな(たしなみのよい)市民社会づくりの模範を提示し続け
るべきだ。
 例えば「賢い政府」の理念づくりと具体化だ。

 また国際社会への具体的な問いかけとして核廃絶、温暖化ガスのゼロエミッ
ション(人為的排出ゼロ)化、そして権力者をも縛る法制の総体としての立憲主
義の確立こそが、日本の差異化としての政治課題のはずだ。
今こそ日本政治の新しいうねりを生み出す必要がある。

平1
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 使い古された表現を用いるなら、<内憂外患>と言える、言うべきでしょうか。
 ただ、表現は簡単でも、内包する諸課題・要因は、多岐にわたり、当然一朝
一夕で済むものではありえない。

 だからこそ、理念の共有・共通認識が不可欠であり、「社会保障と税の一体
改革」の構想、中長期・年次単位の具体化計画、国際社会における「ディーセ
ント」な市民社会・市民国家としてのモデル・範を示すべき、というわけです。

田中氏のような人物を、民進党などは政策顧問として迎えるべきと思うので
すが・・・。
一億総活躍社会とか女性活躍社会、などという表現を臆面もなく使う現政権、
現トップに、ディーセントであることを求めることは、とてもとてもムリと言
うものでしょう。

田中氏もいつの間にか、70歳を超えていましたか・・・。
彼のような人物・人材がなぜ政治家になってくれないのか、くれなかったの
か・・・。

もう遅きに失したと思うゆえ、この良心・良識を政党は今のうちにこそ活用
してほしい。
田中氏にも現実的に、その考え・あり方を表現してくれる政治・政変革を促
してほしい。
そう強く思います。

平6
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