破4

エネルギー

制御不能の技術を生み出した人間の「主体」としての今後のあり方:『さらば、資本主義』から(7)

今年(2016年)6月に<資本主義>と名がつく3冊の新書を読みました。
◆『資本主義の終焉と歴史の危機』(2014/3/14刊)
◆『ポスト資本主義――科学・人間・社会の未来』(2015/6/20刊)
◆『さらば、資本主義』(2015/10/16刊)

どちらも、現在の資本主義が限界を呈し、新たなフェーズに入るべき時代にある
という認識を持ち、これからどのような社会を目指すべきか、を問いかける内容と
なっています。
そこでまず『さらば、資本主義』(佐伯啓思氏著)からシリーズ化。

【まえがき】
第1回:資本主義の終焉、さらば資本主義、ポスト資本主義。これからどうなる資本主義
第1章 今こそ、脱原発の意味を問う】
第2回:「原発」というテクノロジーの意味を考えるべき
第3回:二元論への集約リスクを、現状の世界情勢に見る。解決はポケモンGOに頼みますか
第4回:無限衝動の成長願望循環をどう断ち切り、脱成長・脱原発をめざすのか?
第5回:脱原発と近代とはどういう関係があるのか
第6回:自然科学から宇宙科学への転換と人間の変化

今回は第7回です。

--------------------------
 第1章 今こそ、脱原発の意味を問う(6)
--------------------------

<「アルキメデスの点」を探す>②

確かに、核というものは、もはや自然に対する人間の支配などとはいえません。
 素粒子レベルの抽象科学が発見した「何ものか」が、ある意味で「太陽」を生み出して
しまうのです。人工的なエネルギーを生み出してしまうのです。
 この「宇宙的」なエネルギーをわれわれは意のままに管理することなどできるのでしょ
うか。「宇宙科学」が生み出すものは、人間の管理能力をはるかに超えてしまうのではな
いでしょうか。

 もともとは、宇宙的なエネルギーによってこそ、われわれが存在し、あらゆる生物体も
文字通りの自然も存在したのです。
 そのもとで、われわれは、自然や世界の外にたって、これを支配し、いっそうの幸福を
増大できると思ってきたのです。

 しかし、この構造がくずれてしまった。
 われわれという「主体」や「自然」を成り立たせているこの根源にある宇宙的な過程に
踏み込んでしまったからです。
 この後は、ただ、「主体」も「自然」もすべてが、宇宙的な過程に巻き込まれてゆくし
かないでしょう。

 水力も火力もまだわかりやすいもので、それが「自然」のうちにある力をエネルギーに
変換したものでした。われわれは自然の外にたってその力を管理できたのです。

 自然を管理するということは、自然のうちにある法則を使って、人がその意思のもとに
自然を置くということです。
 しかし、核においてはそのことがたいへん困難になるのです。核エネルギーの場合には、
人は、物理学の理論によって自然の中に入り込み、それを変形し、そのなかから人為的な
エネルギーという怪物を作り出す。
 と同時に、その作り出した怪物の自動運転を管理することはできなくなる
 原発にしても、それを廃止しても核の脅威は何百年と残り続け、被爆すればそれを取り
除くことはできません。廃止しても排除できないのです。
 これでは管理できるとはいえません。
 われわれは、放射線という「宇宙的物質」に服従するほかないのです。

 どうも、現代の科学や技術は、ただ従来のものの発展の延長線上にあるわけではない、
ということをまじめに考えてみる必要があるのではないでしょうか。
 それを突き抜けてしまいつつあるのではないでしょうか。
 近年はやりの生命科学もそういう根源的な危うさをもっているように思います。
 ここでは、遺伝子とは「自然」なのか「人間主体」なのか、よくわからなくなります。
 「主体」としての人間が「自然」に働きかけて、主体である人間の幸福を増大する、
というあのわかりやすい近代社会の合理性がもはや成り立たないのです

 ここまでくると、西洋社会が生み出した「近代」は、どうもわれわれをとてつもない
世界まで連れてきたのではないでしょうか・

 現代文明は、われわれ自身で制御できない技術やシステムを生み出し、われわれがそ
こに縛り付けられているように思えます
 人間はエネルギーを創造し、遺伝子操作によって食品を創造し、さらに宇宙工学によ
って人工衛星という星を創造してきました。
 しかし、本当は「創造」は神の領域のことがらです
 人はあくまでも被創造物なのです。
 近代の合理主義科学のもととなったギリシャ哲学はまた、何よりも人間の「傲慢さ(
ヒュブリス)」を戒めたことを忘れてはならないのです。

破5

※今回で、第1章「今こそ、脱原発の意味を問う」を終わります。

-------------------------------

この第1章の最後は、比較的読みやすかった!(ホッ!)
そして当然、共感も・・・。
この部分を確認するために、この章があった、とさえ言えるわけです。

ただ「本当は「創造」は神の領域のことがら」としたのは、筆者の真意からなのか、
ひとつの抽象・象徴としてのことなのか・・・。
そこが気になるのですが、読み進めていくうちに分かるのでしょうか・・・。

いずれにしても、前回も触れたように、西洋社会が生み出した「近代」の影響を、
日本は確かに強く受けてはいますが、ギリシャ哲学やキリスト教の本質まで影響を受け
ているとは、とても言えません。

また、西洋近代を、頑として受け入れない、拒絶する社会も存在することも、認識し
ておく必要があります。
そのため、核融合や核分裂、原発問題を、そしてエネルギー問題を、全地球・グロー
バル社会が共通に認識するモノ、コトと捉えることにも、時に懐疑的でなければならな
いのです。

そうした背景を踏まえて、グローバル社会でのコンセンサス作りと日本国内における
コンセンサス作りを、複眼的に行うと共に、建前と本音を賢明に表現し、まとめ上げて
いく作業が必要と考えています。

無論、結論としては、脱原発、廃原発であることは言うまでもありません。

さて、筆者が「さらば」と別れを告げるべきとする「資本主義」をめぐる課題。
本書を次にどう紹介し用いていくか、もう一度考えてみたいと思っています。

平3

※次回に続きます。

----------------------

【『さらば、資本主義』構成】

まえがき
第1章 今こそ、脱原発の意味を問う
第2章 朝日新聞のなかの ”戦後日本”
第3章 失われた故郷をもとめて
第4章 ニヒリズムへ落ち込む世界 
第5章 「グローバル競争と成長追求」という虚実
第6章 福沢諭吉から考える「独立と文明」の思想
第7章 トマ・ピケティ『21世紀の資本』を読む
第8章 アメリカ経済学の傲慢
第9章 資本主義の行き着く先
第10章 「がまん」できない社会が人間を破壊する
あとがき 

----------------------

【佐伯啓思氏・プロフィール】
1949年奈良県生まれ。京大名誉教授。
京大こころの未来研究センター特任教授。
東大経済学部卒業。東大大学院研究科博士課程単位取得。
『反・幸福論』『西田幾多郎』など著書多数。

ピックアップ記事

  1. いよいよパワーロボットスーツ、建設現場に:大林組、サイバーダイン「HAL」ゼネコ…
  2. 2016年4月電力小売り全面自由化へ、異業種間提携進む(1):電力・ガス大手の事…
  3. 「地域づくり」の内発性、総合性・多様性、革新性:『農山村は消滅しない』から考える…
  4. 日経記者は政治家に!:日経ビジネス「2000万人の貧困」特集号からの想起
  5. (時事解析)「農業構造の転換」で整理・確認する日本の農業構造改革の基本

関連記事

  1. 1

    エネルギー

    「風力よ、お前もか」。電力行政の矛盾と混迷の長期化で増す、国民と新規事業者の負担と損失

    現在のみならず、ずっと将来にまで社会に重大な影響をもたらす環境・エネル…

  2. 6

    政治

    悲しい「起業に無関心」が72%と高い現実:2017年版中小企業白書・小規模企業白書速報から

    2017/2/18付日経に、少々残念なレポートが載りました。まだ速…

  3. b1ebb128d5622dd0d798e999888a30b1_s

    エネルギー

    脱原発を超えたエネルギー戦略構築の政治・行政は不可能か:新しい政治リーダー登場期待は?

    現在のみならず、ずっと将来にまで社会に重大な影響をもたらす環境・エネル…

  4. f17
  5. 5

    環境・エネルギー

    新電力対大手10社、家庭向け電力自由化で攻守激化へ

    中日新聞は、エネルギー・環境問題に強い関心を持つ新聞社であり地元に…

  6. 洋上風力

    エネルギー

    不足し、費用負担を迫られる送電線網対策不在で進む、再生エネ事業、再生エネ支援ファンド事業

    先日、電力行政のミス・矛盾を指摘するシリーズの一つ、みたいな視点で、風…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

覚えるパスワードを1つに!

worldbanner2
2018年4月
« 11月    
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  
bitFlyer ビットコインを始めるなら安心・安全な取引所で
ロゴマルシェ - LogoMarche
  1. 028

    介護

    結婚・保育・介護・葬祭:日経MJ『第35回サービス業調査』から考えるライフステー…
  2. ロボネコヤマト

    日記・随論

    「ロボネコヤマトの宅急便!」で、どうなる?:ヤマトとDeNA、来年から自動運転車…
  3. 049

    時事ニュース

    低所得若者世代支援へ所得税ゼロ税率化・減税を:政府税調は少子高齢化に配慮した所得…
  4. %e8%ad%b0%e4%bc%9a

    地方

    地方創生・観光立国・農政新時代の成果はいつ実現するか?:安倍首相所信表明演説から…
  5. ドローン

    農林水産業

    高齢化・大規模化背景に、クボタ、農業用ドローン参入へ:農業の生産性向上の武器に
PAGE TOP