017

グローバル情勢

ポピュリズムの多様性・多義性から引き出される主体性・自立性への期待?:日経「広がるポピュリズム」から(上)

 世界中の注目を集めていた、米国トランプ大統領の就任式が、2017年1月20日に執り行われました。
 ポピュリズムの典型とされているトランプ大統領の政策。
 いよいよ実際の政治の舞台で繰り広げられることになり、各国が毎日その動きを報道しています。
 この「ポピュリズム」を考えてみたいと思い、2月から、昨年12月に刊行され、ベストセラーの一つとなっている
ポピュリズムとは何か – 民主主義の敵か、改革の希望か』(水島治郎氏著)を参考にして考えるシリーズを始めます。

 それに先立って、昨年12月、日経に3回にわたって掲載された「広がるポピュリズム」というテーマでの3人の学者
の小論をそのシリーズのプロローグとして紹介したいと思います。
 まず第1回は、竹森俊平慶応義塾大学教授 による以下の小論です。

「 広がるポピュリズム(上)」
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 成果なくても存続の恐れ 中間層の力、回復は期待薄  (2016/12/14)
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 欧州連合(EU)残留を問う英国の国民投票(6月)、米大統領選(11月)、イタリアの憲法改正を巡る国民投票(12月)。
 これら一連の選挙では「ポピュリズム(大衆迎合主義)」が勝利したとみられている。

 多くの経済学者は事前に、
1)英国民投票でのEU離脱の判定はロンドンのマーケットに打撃となる
2)米大統領選でトランプ氏が提唱した高所得者への減税は財政赤字を膨張させるだけで経済成長への恩恵は少ない
3)イタリア国民投票の結果を受けレンツィ首相が辞任すれば銀行危機発生の恐れがある
と警告した。
 いずれの場合も国民は耳を貸さなかった。
ポピュリズムの台頭は「経済学」の危機を招
くかもしれない。

 近年、経済学の見立てと政治の動きがかい離している
 例えば、新興国との貿易拡大を先進国での中間層の所得停滞の一因とする経済学者は、富裕層への課税を増やし、中間層
では減税する所得再分配政策を提案してきた。

 米大統領選でクリントン氏はまさにその提案をしたが、米国民は富裕層への大幅減税を公約するトランプ氏を選んだ。
 グローバル化が進む中で、所得再分配を訴える左派政党は退潮している。なぜだろうか。

 行動経済学の研究で知られるロバート・シラー米エール大教授は、米国の中間層は政府による金銭支援でなく、米国の政治
・経済に対する影響力(パワー)の回復を求めている
と分析する。製造業の安定した雇用はパワーの柱だ。
 他方で、富裕層では増税し中間層では減税するという政策は、金銭支援に等しく、中間層のプライドを傷つける。

 中間層の心理を読み取り、彼らの不満の原因を移民や中国からの輸入に押し付けることで支持基盤を築いたトランプ氏の政
治感覚は卓抜だ。

 しかし提示する政策には、中間層のパワー回復を可能にするものはない
 それが問題だとシラー教授は論じる。

 今世紀に入り、米国の製造業の雇用は500万人減少した。
 雇用減少の最大の原因はロボット化を中心とする技術進歩だ。
 最近米国の工業生産が顕著に伸びているのに、製造業の雇用に改善の兆しがないのはそのためだ。

ポピュリズム論1
※小論中の資料を転載させて頂きました。

 米国企業がコスト削減を狙って省力化投資を進めることや、IT技術が経済の広範な領域に進むことにより、低学歴の労働力が
不要になっていく動きを止めるのは難しい

 トランプ氏が提案するようにメキシコやアジアからの輸入をたたいても、製造業の雇用が上向くかは疑問である。

 英国やイタリアの場合も、経済的に取り残された地域の不満が国民投票の結果に反映されている。
 英国では、金融で潤うロンドン市以外のほとんどの地域はEU離脱を選択した。
 イタリアでも、経済困難を抱える南イタリアでは憲法改正への反対が強かった。

 国民投票は日の当たらない地域の、豊かな地域やエリートに対する反乱でもあった。
 しかしそれは一時的な不満のはけ口にはなっても、日の当たらない地域がパワーを回復する道筋にはつながらない。
 金融業が経済の中心になる中で、ロンドンと他の地域の格差が拡大することは英国経済の必然だ。
 南イタリアの経済格差も、19世紀の建国に遡り流れを変えるのは難しい。

 処方箋を提示できないのはポピュリズムの致命的弱点だ。
 だが成果を上げるのに失敗すれば、ポピュリズムがすぐに消滅するわけでもない

 ルイージ・ツィンガレス米シカゴ大教授は、母国のイタリアでベルルスコーニ元首相が在任中、ほぼゼロ成長という悲惨な実績しか
上げられなかったにもかかわらず、20年以上にわたり政界に君臨する事実を比較に取り上げる。
 そこでトランプ氏の場合も経済政策の実績にかかわらず、長期政権になるかもしれない指摘する。
自身の大統領としての2期を超え、親族を後継者とする「王朝」を築く可能
性さえあるというのだ。

 2人のように強力な支持基盤を持つ政治家の場合、人格や政治倫理の問題を取り上げて攻撃することは、支持者の結束を強めて逆効
果になる。

 「普通の政治家」として扱い、実行する政策の具体的な問題点を攻撃すべきだというのがツィンガレス教授の提言だ。

 成功へのシナリオを描けず、だからといって早急に消滅しそうにないポピュリズムが経済の不透明性を高めている点で、3カ国のケ
ースは共通する

 他方で相違点があることも認識すべきだ。
 そもそも英国とイタリアで国民投票を実施したのは政治指導者の軽率な失敗で、実施されていなければポピュリズムは世界的現象に
はならなかった

 一般にイエスかノーかだけの回答をする国民投票は、国民が不満を表明する「はけ口」に転化しやすい。
 思い起こされるのは、危機のさなかに実施された15年7月のギリシャの国民投票だ。

 直接に問われたのは、「既に期限切れで失効したEUのギリシャ救済案」をギリシャ国民が受け入れるかどうかという意味不明の質
問だった。

 それをメルケル独首相が「ギリシャがユーロに残留するかどうかの国民投票だ」と勝手にコメントしたため、世界のマスコミはそう
報じた。しかしギリシャ国民は単純に不
満のはけ口として「ノー」を選択する。
 その時点で彼らの希望が圧倒的にユーロ残留だったのは世論調査からも明らかで、それを受けてギリシャ政権も結局残留を選んだ。

 今回のイタリアでは憲法改正が否決されれば辞任するとレンツィ首相が事前に言明したため、実質上「首相のリーダーシップ」に対
する国民投票になった。

 だから強力なリーダーが変化をもたらすのを嫌う国民の多くもノーと投票した。
 変化を求める国民が投票結果を決めた米国や英国の場合とは性質が異なる。
問われた
内容は「議会制度改革」という特定のテーマだから、投票結果が国の進路まで縛るわけではない。
変化を嫌う国民は、ユーロ離脱などの急進的政策にも反対するだろう。

 一方、英国の「EU離脱」の判定は国の進路を縛る。
 現在は離脱プロセスを具体化するためのリスボン条約50条の発動に、議会の承認も必要とした英国高裁の決定により、政治プロセ
スはマヒ状態に陥っている(政府は最
高裁に提訴して1月に裁定の見込み)。

 半数以上がEU離脱に反対の立場という国会議員の考えと、国民投票に示された「EU離脱」の民意との折り合いをどうつけるか、
筋道がみえないのだ。

 実質一院制の英国システムは、上院と下院で多数派の政党が異なる「ねじれ」による政治のマヒを防げるため、レンツィ首相はイタ
リア議会制度改革のモデルとして提案。

 その英国で議員の考えと民意がねじれ、政治のマヒが招かれたのは皮肉だ。

 トランプ氏は大統領選中、白人中間層の移民やマイノリティーに対する差別意識をあおるなど、米国政治のタブーを次々と破ってきた。
 目的達成(大統領選勝利)のためにはいかなる手段も許されるという冷徹な政治戦略が、そこでは強烈に示されていた。

 次なる目標(再選)達成のために当面、大幅減税など目にみえる実益が短期で生まれる政策が優先されるだろう。
 だが成長率引き上げや中間層のパワー回復といった公約が達成できなかった時に、どう出るか。
 冷徹な政治戦略に従い、責任を他国に押し付けて、保護貿易政策を進めることが危惧される。やはり一番心配なのは米国の行方だ。

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竹森俊平慶應義塾大学教授:1956年生まれ。慶大卒、ロチェスター大博士。専門は国際経済学

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経済学の見立てと政治の動きがかい離している。」とありますが、経済学の見立てと実体経済の動きが乖離することは、当たり前の
ように、多々あることで、格別不思議なことではありません。

「英国とイタリアで国民投票を実施したのは政治指導者の軽率な失敗で、実施されていなければポピュリズムは世界的現象にはならな
かった」
そうした軽率や偏りは、政治においては常につきものであり、常にリスク・可能性をはらんでいることも事実です。
しかし、軽率だった判断も、その時には真面目に考えてのことであったでしょうし、偏りも、見方・立場を変えれば、決して間違い
とは断定できない・・・。これも事実・現実の一面です。
そうした社会的リスクを抱える政治自体、その政策の中に「ポピュリズム」的要素を含むことは、当然であると思います。
問題は、その時々のポピュリズム的政策・言動が、どこを、誰を向いているか、です。
そして、その政策が実行されたときに、どんな結果・成果が生まれるのか。
本来その結果・成果で、政治が評価されるべきなのですが、その評価基準が果たして正しいのか、民主主義での多数を占めるのか。
そのジャッジがすべての人々が同一であれば問題ないのですが、そんなことはありえない・・・。

ポピュリズムの嗜好性、多様性、多義性・・・。
厄介な課題が付きまとっている。
米国の混沌、もしかしたら迷走のリスクもある政治が、他の諸国の自立・主体性に強く働きかけることになれば、それはそれでプラ
スになるのかもしれない。
新たな可能性・活力の発現、関係作りに期待したい。
そんな楽観もありうるのかな、とふと思ったりもするのです。

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