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暮らし

解消急ぐべき「機会の不平等」。その道筋を具体的に提示せよ!:日経「貧困・格差をどうするか」より(上) 

昨年12月下旬、日経が<経済教室>面で、ここ数年問題視されている貧困・格差問題を取り
上げ、「貧困・格差をどうするか」と題して、3人の学者の小論を掲載しました。

2017年、この問題がどのように変化・進展していくか注目すべく、年初、順に紹介してみたい
と思います。

1回目は、白波瀬佐和子東京大学教授による以下の小論です。

「貧困・格差をどうするか」(上)
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 「機会の不平等」解消急げ 若者も支え合いの対象に (2016/12/26)
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1960年代の日本は、奇跡と称される経済成長を成し遂げただけでなく、誰もが中程度の意識
を持つ社会を実現した。
 76年の経済協力開発機構(OECD)による所得格差の国際比較では、日本は最も平等な国
という結果が示され、経済成長のみならず平等も実現した国であることを国内外に印象づけた。

 だが90年代に入りバブル経済が終わり長期の経済停滞期に突入したころ、日本にも実は大きな
経済格差が存在することが明らかとなった
 2008年のリーマン・ショックのころからは、格差よりも貧困が問題視された。
 格差是認論の登場も相まって、世の中の関心は貧困へ傾いていく。

◆貧困改善へ背景にある格差にも目配りを

 そもそも格差と貧困を別個のものとしてとらえるのは望ましくない。
 例えば所得格差を考える場合、格差の下層にいる者だけでなく、上層にいる者も含むすべての
社会の構成員が検討の対象となる。
 豊かな者と貧しい者の所得の違いを単なる差ではなく、格差と呼ぶのは、そこに価値判断が介
入しているからだ。

 社会を構成する人々の所得が全く同じ「完全平等」という基準からのズレの程度を格差とみなす
 格差はその大小だけが問題ではない
 連続的な格差ヒエラルキー(階層)の中にはいくつかの層が存在する。
 例えばそれは中間層であり、貧困層である。

 相対的貧困率とは、全人口の世帯所得の中央値の半分に満たない者の割合のことだ。
 つまり貧困は、格差という構造的な背景のもとに位置づけられる
 筆者が専門とする社会階層論では、異なる階層間の関係(異なる階層間の移動しやすさ、あるい
は同じ階層でのとどまりやすさ)が不平等を生む構造ととらえる。

 図は、OECD加盟主要国のジニ係数所得格差指標、1に近づくほど不平等)と貧困率を示し
たものだ。

 日本の所得格差の程度は真ん中程度だが、貧困にある者(自身の所得が全世帯所得の中央値の
半分に満たない者)は比較的多い
 差の程度よりも、特定層の規模や互いの関係がより重要であると示唆する結果だ。
 日本での貧困を改善するには、その背景にある格差を巻き込んだ政策を展開しなければならない

 その一つが再分配政策である。
 16年11月のOECD報告によると、市場所得と可処分所得からみた再分配効果は、日本が14.9%
と35カ国中5番目に低い。
 貧困層という特定の層そのものを強調する議論は、時として社会の分断を生む
 日本で貧困層の問題が格差縮小というマクロの再分配の観点から十分に取り組まれていない事実
が、再分配効果の低さとして表れている。

◆家庭環境や出生時期は個人の選択超える

 誰が富める者になるのか、誰が貧しい者になるのか。そのチャンスは五分五分ではない
 人種やジェンダー(性差)、生まれ育った家庭環境や地域、さらには学歴といった要因が関わっ
てくる。
 例えば、母親一人家庭でたまたま生まれ育った子どもは、本人の意図にかかわらず高い貧困リス
クを抱えることになる。

 貧しいという状態は単なる経済的な問題でなく、子どもたちの実際の生活に様々な影を落とす
 学業成績にしても、その背後では学力を形成する勉強の習慣、規則正しい生活、十分な食生活と
いった基礎的な生活スタイルが影響する
 人生のスタートラインでそもそも違いがある。これがいわゆる「機会の不平等」である。

 格差の国といわれる米国では、60年代から子どもたちの機会均等に関する議論が始まった。
 66年には米社会学者ジェームズ・コールマンが代表となり「教育機会均等調査」を実施した。
 子どもたちの学力差は学校の要因よりも、出身階層(親の社会的地位)によるところが多いと
結論づけられた。
 要するに、子どもの不平等の解決に向けて、学校教育のみならず、出生時から複雑に絡んだ不
平等構造を考慮することが大切だ。

 親を選べない子どもたちは生まれ育った環境を背景とする異なる資源をもって、様々な人生の
岐路に立ち、選択を強いられる
 貧困になりやすさの違いもさることながら、いったん貧困に陥った場合にそこから抜け出す手
立てもまた十分でないのが現状だ。

 女性の貧困にしても、労働市場では男女間で職種やキャリアパスが異なることが賃金格差とし
て表面化する。
 女性の場合、たとえ男性と同程度の学歴を有していても、昇進機会や仕事の選択の幅が限られ
ている場合が多い。

 そもそも女性の働き方は、結婚や子育てを前提とした条件をもとに、労働の場の選択肢が準備
されている
 離婚した女性の貧困率の高さは、そうした想定外の女性の働き方に現実の制度が対応していな
いことを示す具体的な事例といえる。

 もう一つ、機会の不平等を考える際に忘れてはならないのが世代・時代(出生時期)の効果だ。
 16年のOECD報告によると、日本の18~25歳層の貧困率は19.7%と、OECD35カ国中8番
目に高く、17歳以下の子どもの貧困率(16.3%)よりも高い

 いつの時代に生まれるかも個人の選択を超えることだ。
 生まれた時期はその後の就職時期、結婚して家族を形成する時期、さらには子どもの養育時期
といった様々な人生のイベントに影響を及ぼす。
 たまたま就職活動が景気の良い時期に当たった者とそうでない者は、職業経歴のスタート時に
既に個人の能力以外の要因の影響を受けている。

◆いまの若者に配慮した独立促す政策が必要

 今や高齢世代だけでなく、若年世代も社会の支え合いの中に位置づけることが必要な時代にな
った。
 制度設計にあたっては、配偶者、子どもといった特定の属性のみならず、「いまの若者という
世代・時代効果を配慮する必要がある。
 例えば、特定の企業とは独立した職業訓練機会の提供、独り立ちして間もない時期の税優遇、
独立した住居を構える際の住宅手当や住宅購入時の優遇措置などだ。

 12月14日、年金支給額の上限抑制策を柱とする改正国民年金法が成立した。
 戦後日本の公的年金制度の土台となったのが、61年に確立した国民皆保険・国民皆年金だ。
 総務省の「人口推計」によると、当時の65歳以上人口は5.7%と、16年の27.3%を大きく下回っ
ていた。

 しかし今や、急激な人口高齢化に伴う世代間格差の是正を大義名分に掲げても、改革に伴う年金
額抑制への反発は小さくない
 高齢層は高い貧困リスクを抱えるもう一つの層だ。
 事実、65歳以上の貧困率は19.0%とOECD35カ国中9番目に高く、17歳以下の貧困率よりも
高い。特に一人暮らしの高齢女性の貧困率は高く、年金額抑制の影響を最も受ける人々といえる。

 高齢化に伴い高齢層の規模は拡大し、その経済状況は様々だ。
 貧しい高齢者もいる一方、多くの資産を持つ富裕層の高齢者もいる。
 そうした高齢層の多様な中身は、若者からはなかなか見えにくい。
 両者は時に、コンビニなどのアルバイト募集に応募して仕事を取り合う敵同士にもなる。

 「いまの若者」は経済が急成長するとか、景気が良いという時代を経験したことがない。
 そうした若者と異なる時代を経験した高齢者たちにも若者たちの正体は見えてこない。
 しかしながら、世代間のアンバランスの解決は、異なる世代間での猜疑心からは生まれない。
 超高齢化する格差社会を乗り切るためには、社会規模、地球規模の助け合いを実現し推進する
公共概念の構築が鍵になる

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※白波瀬佐和子東京大学教授:1958年生まれ。オックスフォード大社会学博士。専門は階層・格差論

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格差と貧困が生じている要素・要因を、相対的貧困率などの数値を用いて示す。
ここまでは、数字のハンドリングで簡単です。

しかし、その解消策となると、結びにあるように「社会規模、地球規模の助け合いを実現し
推進する公共概念の構築が鍵」といきなり情緒的・感覚的な課題化で、結びとしてしまう。

学者、学問の限界を示しているのですが、ご本人たちには、そういう限界意識はないのも常
です。そもそも、日本の国内的問題をテーマとしていたはずのものが、地球規模の問題になっ
てしまっている・・・。

そしてまた、初めの問題提起に戻ると、「機会の不平等」を巡っては、言わんとすることは、
もちろん理解でき、その機会の不平等を改善することが望ましいことにも賛成できます。
しかし、実際に、何をどのように、どのレベルまで平等化を図ることが望ましいのか、困難
な課題への処方箋を示すことは無論簡単なことではありません。
もし、文中の例えにあるように、チャンスを「五分五分」にすることや<完全平等>を実現
するとなると、むしろ、究極の管理社会を構築することになる・・・。

 そして提起した「いまの若者」という世代概念も、高齢世代と対極化しての全非高齢世代を
対象とするか否か、明確にすべき。
また、その「いまの若者」間内での格差をどう扱うのかも触れるべき・・・。

急ぐべき格差の解消。
そのためにどういうシナリオを用意できるか、するのか・・・。

個の概念よりも公共概念を重んじる人と世代、社会の醸成。
そのための方策を、いかに紙面文字数に限りがあるとしても、軸となるもの、軸とすべきもの
くらいは提示すべき。
それが、こうした重要な問題を論じる者の責務であると思うのですが・・・。

格差・貧困問題の改善策。
学者・研究者が具体的な提案をその研究活動から行う。
当然、関係官庁が、個々にではなく、関係する官庁が連携・総合して行う。
それらを活用しつつ、政治が、望ましい方針・政策・法律を議論し、制定し、実現する。
その政治主体を選択・選出する国民。

その国民は、誰の提案・提言に強く影響を受けるか、意志を持つ主体としてどんな選択行動を
取るか・・・。
そのための適切な判断基準、行動基準を身に付けるための機会の平等を保証する・・・。
まさか、そこまで堂々巡りすることにはならないこと、望みたいですね・・・。
次回は、所得格差、賃金格差面からの議論・小論・提案を取り上げます

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