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日記・随論

貧困・格差対策の根本は税財政改革から:日経「貧困・格差をどうするか」より(下)

昨年12月下旬、日経が<経済教室>面で、ここ数年問題視されている貧困・格差問題を取り
上げ、「貧困・格差をどうするか」と題して、3人の学者の小論を掲載しました。

2017年、この問題がどのように変化・進展していくか注目すべく、年初、順に紹介してきま
した。
第1回:解消急ぐべき「機会の不平等」。その道筋を具体的に提示せよ!:日経「貧困・格差をどうするか」より(上)
第2回:格差・貧困対策には極めて限定的な最低賃金引き上げ策、非正規賃金改善策:日経「貧困・格差をどうするか」より(中)

3回目、最終回は、戸室健作山形大学准教授による以下の小論です。

「貧困・格差をどうするか」(下)
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 ワーキングプア対策 急務 子どもへの連鎖 断ち切れ (2016/12/28)
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 貧困状態にある子どもの割合が高まっている。
 政府は「国民生活基礎調査」に基づいて計算した「子どもの貧困率」の数値を3年ごと
に公表している。直近の2012年の数値は16.3%に達した。

 筆者も独自に、総務省の就業構造基本調査と厚生労働省の被保護者調査を基に計算した。
 18歳未満の子どものいる世帯のうち、生活保護法の最低生活費以下の収入しかない世帯
の割合と定義した。
 その結果、1992年から12年の20年間で、18歳未満の子どものいる貧困世帯数は70万世帯
から146万世帯に倍増し、子どもの貧困率は5.4%から13.8%に急上昇していた。

 都道府県別でみると、概して関西から西の地域と東北から北の地域で恒常的に高くなって
いる。
 12年時点の貧困率の高い自治体を順に挙げると沖縄県(37.5%)、大阪府(21.8%)、
鹿児島県(20.6%)、福岡県(19.9%)、北海道(19.7%)となる。

 子どもの貧困を解消するために何をすべきだろうか。

◆貧困世帯の生活保護の受給率向上が必要

 まず緊急に実施すべきは子どものいる世帯に限らず、貧困状況に陥っている人々に生活保護
を受給させることだ。

 日本では多くの貧困世帯が生活保護を受給できていない
 貧困世帯がどれくらい生活保護を受給できているかを示す数値として「捕捉率」がある
 筆者の計算では、大人だけの世帯も含めてすべての貧困世帯数は12年に986万世帯に達する
 同年の生活保護世帯数は153万世帯なので、捕捉率は15.5%だ。貧困世帯の8割以上が生活
保護制度から排除されている

 都道府県別の捕捉率も計算した。
 最も高い自治体は大阪府の23.6%と、一番高くても2割台どまりだ。
 捕捉率が全国の15.5%を上回る自治体は、47都道府県のうち11の自治体(大阪府、北海道、
福岡県、東京都、高知県、青森県、神奈川県、長崎県、広島県、京都府、兵庫県)だけだ。

 一方、低捕捉率地域はかなり多い。
 最も低い自治体は富山県の6.5%で、大阪府との差は3.6倍に達する。
 同じ貧困状態にあっても、居住地域により生活保護を受給できるかできないかという地域
間格差はこれほど大きい

 生活保護費の財源は4分の3が国庫負担で、残りは自治体負担だ。
 そのため「財政力のない地方の自治体ほど、負担増大を嫌って生活保護受給者を出さない」
との指摘もある。
 生活保護費の全額を国庫負担とすることで、自治体間格差を解消するとともに、全国的に
捕捉率を上昇させていくことが求められる。

 子どもの貧困を根本的になくすには、ワーキングプア(働く貧困層)に陥らせるような仕
事をなくすことが必要だ。
 子どもの貧困が増えている原因には、ワーキングプアの増大が関係しているためだ

 ワーキングプアはどれくらい増えているのか。
 収入の多くを働いて稼ぐ世帯のうち、最低生活費以下の収入しかない世帯と定義し、その
割合をワーキングプア率とした。
 ワーキングプア世帯は92年の133万世帯から12年には2.4倍の320万世帯となり、ワーキン
グプア率は4.0%から9.7%に高まった

 ワーキングプア率を都道府県別にみると、この比率が高い自治体では子どもの貧困率も高い
ことが分かった。
 図は、都道府県別のワーキングプア率と子どもの貧困率の関係を表したものだ。
 両者の相関関係が明瞭に示されている。

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※小論中の資料をそのまま転載させて頂きました。

 これは、子育てをしている親の収入の低さが、子どもの成育環境に負の影響を与えている
ことを示す。
 親世代の貧困が次世代に引き継がれている。
子どもの貧困」を考えるとき、貧困状態にある子どもが属する世帯の状況に注意を払わ
ず、子どもの問題だけを取り出して貧困を解決しようとしても無理だといえる。

 子どもの貧困を根本的になくすには、親世代の就業環境を改善していく取り組み、すなわ
ちワーキングプアの仕事(非正社員の仕事や、正社員であっても賃金が低い仕事)をなくし
ていく取り組みが重要だ。

 具体的には、労働者の4割にものぼる非正社員の活用を規制する必要がある
 労働契約法18条では、契約を更新して働く非正社員が5年を超えれば正社員に転換できる
ルールが明記されているが、5年では長すぎる。
 これを1年や半年に短縮し、非正社員の活用を臨時的・一時的業務に制限する方策などが
考えられる。
 また正社員でも低賃金の仕事が広がっていることを考慮すると、最低賃金の水準を最低で
も時給1500円以上に引き上げるべきだ。

◆自治体は働く貧困層削減に資する施策を

 自治体レベルで可能なワーキングプア削減策としては、自治体で非正規職員の数を減らし
て、正規職員に置き換えていく施策が挙げられる。

 また自治体が仕事を民間に委託する際にワーキングプアが生み出されることが問題にな
っている
競争入札で最も安い見積額を提示した企業が自治体の仕事を落札することになれば、企
業はなるべく安い労働力を使って、請け負った仕事をこなそうとする。
 それを防ぐには見積額だけでなく、正社員数の多さや賃金の高さなどを業者選定の評価
項目に加えることが必要だ。

 仕事を請け負う企業に対して、社員に一定額以上の賃金を支払うことを義務づける公契
約条例を制定する自治体も徐々にだが、増えつつある
 こうした動きを全国的に広げていくことが効果的だろう。

 ここまで子どもの貧困を解消するための方策として、生活保護制度の拡充と労働条件向
上を取り上げた

◆基礎的社会サービスの無料提供を目指せ
 このほか中長期的に求められるのは、労働条件の悪化によりすぐさま貧困に陥ることが
ないように、労働と生活保護制度の間に、防貧機能を強力に果たす社会保障制度を構築す
ことだ。
 目指すべきは、人間が生きていくうえで必要な基礎的社会サービスを、誰もが無料で
けられる社会
である。

 例えば医療費の窓口負担の無料化、最低保障年金制度の創設、大学授業料の無償化や給付
型奨学金の創設家賃補助制度の創設や公営住宅の増設児童手当の拡充保育料の
無料化
雇用保険の給付対象にならない人でも一般財源から給付を受けられる失業扶助
制度の創設
考えられる。

 当然、こうした社会保障制度の拡充には、これまで以上の多額の財源が必要となる。
 そうしたことが可能なのか。

 そもそも国民所得に対する社会保障費の割合(社会支出率)をみると、日本は他の先進
国と比べて必ずしも高いわけではない。
 国立社会保障・人口問題研究所によると、13年度の社会支出率は日本が32.1%なのに対
し、フランスは45.3%にのぼる。
  日本もフランス並みに拡充すれば、今より47兆円分も増額した社会保障制度を実行で
きる。

 肝心の財源については、日本の国民負担率(国民所得に対する税金と社会保険料の合計
の割合)は低い。
 13年度は41.6%だ。フランス並みの67.6%に引き上げれば、今より93兆円も多い収入が
見込まれる。社会保障制度の拡充は十分可能だと考えられる。

 もちろん増収分については所得再分配機能を強化して、富裕層や大企業に応分の負担を
してもらわなければならない。
 社会保障給付や賃金の増大は、国内需要を刺激し、日本経済(特に地方経済)にプラス
の効果をもたらす。貧困は人権の侵害であり、貧困解消は社会的な要請である。
 そのうえで経済成長にもつながるという新しい発想が、経済の世界で求められている。

6

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※戸室健作山形大学准教授 78年生まれ。明治大博士(経営学)。専門は労使関係論、社会政策論

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ワーキングプア。
一応働いてはいるが、種々の事情で、労働可能な時間数に制約があるため、総収入が自ずと低く、
生活保護制度で規定する金額に至らない場合。
働いてはいるが、非正規雇用で低賃金に甘んじざるを得ない場合。
雇用契約上は、一応正規雇用ではあるが、賃金レベルが低く、同様の基準に金額が満たない場合。

前回の小論で、所得格差による貧困が課題とされましたが、今回もまず、最低賃金のレベル・実態
がもたらす貧困と格差の改善に焦点が当てられています。

健康で文化的な生活を送るために必要な原資を得るための就労とその対価としての賃金・給与。
それが、貧困生活を強いる金額にとどめられ、そのことで経営を成り立たせているならば、労働搾
取であり、経済的行為の自由と雇用者としての責任を逸脱するものと糾弾されるべきです。
そうした搾取でしか経営を成り立たせることができない企業・事業は、法的にも排除されるべき。
そのために、社会保障制度と労働契約制度、両面から見直し、貧困化の要因・要素を雇用・賃金面
では排除してしまう。
この最低賃金の引き上げが、まず根本的な変革課題として、一層深く論じられ、検討され、法的に
改善されるべきです。

シングルマザーなどが、子育てや教育に必要な社会システムの未整備・不足などの諸事情で、フル
タイムでの就労が困難な場合などは、保育・教育に必要な費用の補助や施設利用の支援・保証など
物的・経済的支援制度でカバーする。

このように、小論中にある種々の基礎的社会サービスの法制化で、生活保護に代わる社会的インフ
ラを整備拡充すべきことに異論はありません。
これは、個々人の抱える事情の多様性に応え、社会保障受給の選択肢を増やすことを意味します。
それらのサービスを無償化したり、補助金を支給することで、経済的な困難を改善・解消する。
それらの基礎的サービスを受けつつ、所得を上げていくことができるよう、就労支援や技能訓練の
機会を提供する。

特に、住宅費用の支援や住居提供、保育所利用支援や無償化、教育費用の無償化・補助・奨学金給付
などは、格差の改善と、生活レベルの向上のためのプログラムとして、機能し、寄与することになり
ます。

そこでは、まず所得再分配という発想・議論に先行して、財政分配=予算の在り方から変革します。
その取り組みを先行しつつ、その財源である個人と企業の所得の徴収方式の改定、消費増税等総合的
な税制改革を並行して進める。
格差と貧困対策は、結局、税財政改革なしには、現実的には無理です。
3回の小論では、共に、その指摘・提言が弱く、いとも簡単に、比率を変えれば問題解決可能と結論
づけられていたことが不思議でなりません。

格差・貧困解消のために社会保障費を増やす。
それは、増税でか、予算配分方式の変更でか。
予算配分を変更するならば、どこをどのようにして変えるのか。
もうそろそろ、赤字国債の対策を含め、具体的・現実的な税財政改革、やりましょうよ・・・。

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