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地域の比較優位は1日にして成らず。新たな産業集積概念で時空間経済と地方創生を:日経「産業集積による地方創生」から(4)

2017/2/14から日経【やさしい経済学】欄で、
「産業集積による地方創生」と題したミニ講座が、8回にわたり、大久保敏弘慶応義塾大学
教授執筆で連載されました。
それらを2回ずつ紹介するシリーズ。
第1回:空間経済学という耳慣れない視点は地方創生とどう結びつくか:日経「産業集積による地方創生」から(1)
第2回:経産省政策作りは、マクロだけでなくミクロも:日経「産業集積による地方創生」から(2)
第3回:国内の地方創生未解決のまま海外展開視野は不自然:日経「産業集積による地方創生」から(3)

今回は最終回で、7と8をまとめました。

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  7.独自の魅力が集積の基盤に (2017/2/22)   

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 地方の産業集積がグローバルバリューチェーン(GVC)につながるには、集積地域の持つ
支援機能が重要になります。
地域ではどのように資金を確保し、優秀な人材を育て、技術水準を引き上げ、他のローカル
企業や地方自治体とつながっているのか。

 具体的には
(1) ベンチャーキャピタルなどスタートアップの補助
(2) 技術面や人材面での大学との連携
(3) 地域金融の充実
(4) 地方自治体や商工会議所による情報などソフト面での支援
(5) 同業者間や他業種間の地元ネットワークによる互助
などです。

 こうした背景を持つ地域の産業集積はいわばローカルチェーンといえますが、GVCと有機
的にリンクさせるには“潤滑油”が必要となるでしょう。
その第一は流通業です。
地方には生産性が高くても国際化できない企業(臥龍(がりょう)企業と呼ばれる)が少なか
らず存在します。
地方の卸売業がうまく媒介して輸出入を促進できれば、GVCに組み込まれる可能性も出て
くるでしょう。

 第二に大企業の本社機能の回帰です。
東京に本社のある生産性の高い大企業の中には地方で創業した企業も多々あります。
そうした企業の機能の一部を地方へ回帰するよう促し、地方の技術力のある企業と連携した
り、伝統産業やサービス産業と連携して高付加価値を追求することで、輸出したりGVCにつ
ながったりすることが考えられます。
交通網やICT(情報通信技術)は高度に整備されており、何らかの外生的なショック(大
規模自然災害など)で本社機能が地方に移転する流れに変わる可能性は低くないと思われます。

 ただ、政策頼みではGVCにつながることも、質の高い産業集積の形成も進まないでしょう。
グローバル化した現在、問われるのは国内だけでなく世界におけるその地方の比較優位であ
り、地域の独自性と魅力です。
各地域の企業や人々が地域の強みを発掘し、どう磨いて世界に発信していくか、それぞれの
地域で何が強みなのかが問われます。

 理念ある地域の経営者を含め、多様な人々の協働によって独自の文化と魅力を作り上げてい
くことが、強い産業集積を形成する基盤になってくるのです。

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確かに、いまだに地方において卸売り業がしぶとく地域経済に根付いている実情があります。
しかし、GVC化までのノウハウや人材を確保できているかとなるとどうでしょうか。
ここでは、生産者自らの意志や、インターネット、情報システム、物流などの複合する要素
のいずれかで牽引する企業が存在すれば、ブレークスルーが可能になるかと思います。

結局、情報発信力とVCを形成するための行動力、その行動を起こすための情報収集力、ネッ
トワーク構築力の有無、レベルに委ねられることになります。

その場合、物理的な産業集積という概念や方法が必須なのか・・・。
そうではなく、ネットワーク化による「産業連携」や産業多層化、レイヤー形成という概念の
方が受け入れやすく、かつ現実性を持つのではないでしょうか。
特に物理的、地理的、面積的に限られた地方・地域では、産業集積という方式には、ムリや
抵抗があると思うのですが。

2
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 8.地域の「比較優位」高める必要  (2017/2/23)
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 これまで産業集積による地方経済の活性化について検討してきました。
地方経済の空洞化は進んでいますが、産業集積の形成次第によっては道は開けるでしょう。
まずは補助金による重厚長大型の誘致政策の見直しが必要です。
そのうえで前回までの内容をまとめると、
(1) 少数・小規模でも生産性の高い企業からなる「質」の高い産業集積
(2) サービス業も含めた幅広い産業集積
(3) グローバルバリューチェーン(GVC)の一部工程につながるような産業集積
に転換していくことが求められます。

 企業の異質性を考慮した空間経済学によれば、都心部に高い生産性の企業が集中します。
生産性の高い企業は東京や大阪に本社が立地します。
一方、地方が補助金などで企業を誘致しようとしても、生産性の高い企業の誘致は非常に
難しく、輸送費が低くなるにつれて地方と都市の格差は拡大することが最近の研究で分かっ
ています。

 ただ、ICT(情報通信技術)や高速輸送網の発達によりコミュニケーションコストが急
速に低減しているため、企業内部の機能の分離と地方移転を促進できる可能性があります。
本社機能の一部を地方に移転するといった動きを、税制や特区などを通じて地方自治体や
政府が支援していく必要があると思われます。

 さらに製造業の産業集積にこだわらず、サービス産業との連携も考えられます。
例えば観光業です。
海外からの観光客を産業集積地域の工場見学や伝統工芸品の製作体験のツアーに呼び込む
といった取り組みであれば、産業集積を生かすことができ、従来型の箱もの施設も不要にな
ります。

 このような産業集積の形成のためには、まず各地域の「比較優位」を高めていく必要があ
ります。つまり地方の独自性や理念が重要であり、これを明確にすることが肝心です。
その独自性をブラッシュアップし、世界に発信することでブランド化し、「比較優位」を
作りあげていく。
このような動きを地域の人々が中心になって作り上げること。これこそが最も重要である
といえます。

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ようやく最後に、このところ課題とされているインバウンド対策、農業・漁業振興、観光、
地域文化・伝統・工芸の活用などを融合させたVC、ヴァリューチェーンを一例として推奨す
る内容が提示されました。
従来型の製造業主体の産業集積という概念は、中小地域・自治体ベースではもはや有効では
ないでしょう。
また、いきなりGVCという概念を提示されても、先行すべきは、地域ローカルを、国内とい
うローカルの単位・エリアに広げて、VC、より原始的にはSC、サプライチェーンの基盤を整
備すべきです。
もちろん、いきなりグローバル・デビューを果たすことが不可能というわけではないですが、
持続性を持たせるためには、国内資源を地域資源としても活用して、基盤を拡充することを
先行させるのが望ましいと考えます。
人材の育成、技術・技能の蓄積、そしてマーケティングとマネジメントの力を蓄えるために。
加えて、その中に、世代のミキシング、交流、ノウハウの伝承などの時間を要する取り組みも
あるからです。
仮に補助金を活用できるならば、そうした部分に向けることが望ましいでしょう。
インフラ投資に当たります。

産業集積は、そうした技術・技能、人材・ノウハウの集積を図るという意味でこそ用いられる
べき概念と言えるのかもしれません。

比較優位は、1日にして成るわけではなく、その種を再発見し、育成し、こうした地道な活動を
継続して行うことで形成・構築されるものと言えましょう。
大都市圏からの本社やその一部機能の地方移転などは、むしろ邪魔になるかもしれません。
いずれにしても、その地方・地域に愛情・愛着をもった世代間の新旧を融合しての付加価値の
創造により、ローカル、グローカル、グローバルの多様で新しい時空間経済を産み出す地方創生
を期待したいと思います。

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