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地方

国内の地方創生未解決のまま海外展開視野は不自然:日経「産業集積による地方創生」から(3)

2017/2/14から日経【やさしい経済学】欄で、
「産業集積による地方創生」と題したミニ講座が、8回にわたり、大久保敏弘慶応義塾大学
教授執筆で連載されました。
それらを2回ずつ紹介するシリーズ。
第1回:空間経済学という耳慣れない視点は地方創生とどう結びつくか:日経「産業集積による地方創生」から(1)
第2回:経産省政策作りは、マクロだけでなくミクロも:日経「産業集積による地方創生」から(2)

今回は、5と6をまとめました。

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  5. 補助金は低生産性企業を誘致 (2017/2/20)   
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前回紹介した産業クラスター政策のうち、テクノポリス政策頭脳立地政策を取り上げます。
 テクノポリス政策は1983年にスタートし、全国26地域が拠点に指定されました。
 後継となる頭脳立地政策は88年にスタートしました。
 これらの政策では次世代型の新産業の創生、高度な労働者の集積、産官学連携による技術革新
を目標にし、地方経済の創生と高度な産業集積の育成を目指しました。
 いわば「日本版シリコンバレー」の試みによる地方創生といってもいいでしょう。

 その後、様々な産業集積や地域の事例研究が蓄積されました。
 しかし、包括的なミクロ計量経済分析による政策評価は十分に行われませんでした。
 筆者と冨浦英一・一橋大教授との共同研究では、経済産業省の工業統計調査の企業データを用
いて実証研究を行いました。
 その結果、政策によって企業の誘致は進み、地域の雇用数は増えたものの、誘致された企業の
生産性は総じて低いことがわかりました
 したがって産業集積全体の平均生産性は下がりました。
 政策全体で見れば、生産性の低い企業の集積ができたということになります。

 これは以前紹介した、企業の異質性のもとで起こる「空間ソーティング・セレクション」の理論
を実証分析したことになります。
 理論によれば、都心部に生産性の高い企業が集中する一方、地方における補助金などを通じた誘
致政策は企業の集積を進めるものの、低い生産性企業の誘致に終わることになります。

 例えば、ある地方に移転すると1000万円の補助金がもらえるとします。
 都心にある年商100億円の企業は割に合わず関心を示しませんが、年100万円の赤字企業はその地
方に移転するインセンティブがあります。
 結局、補助金を通じて生産性の低い企業が集まることになるという単純な理論です。

 このような産業クラスター政策は企業数を増やして集積を形成できるものの、集積の「質」は向上
しないということになります。
 さらに、財政負担が大きいため、財政悪化や少子高齢化の進む日本経済では、こうした政策からは
脱却すべきだといえるでしょう。

産業集積補助金

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まさに補助金頼みの企業は、自己革新力がないゆえに、投資資金の余力がないゆえの行動を取る
わけです。
ペーパー上の移転後の事業計画は書けるでしょうが、地方での自社・自事業の成長・展開には、
補助金以外に、人と技術の要素の質的向上が不可欠で、移転してそれらを簡単に入手できるはずは
ないでしょう。
テクノポリス政策頭脳立地政策に基づき、全国各地に展開された地域は、どこだったのか。
そしてその結果はどうで、今日どう評価されているのか。
ぜひそこまで踏み込んで、紹介して欲しかったですね。

そして、補助金を受け取って移転した、低生産性企業はどこだったのかも。
そもそも、補助金を給付する価値がある企業かどうかの目利きがあるかどうか、的確であったか
どうかが問われるべきで、補助金制度そのものが悪かったということではないと思うのです。
そういう視点で、産業クラスター政策・計画の総括もすべきだったのですが、どうなのでしょう。

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 6.海外生産ネットワークへ参加 (2017/2/21)
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従来の産業集積の研究は国内経済の枠内で、都市と地方の対立軸で議論してきました。
 しかし、今日のグローバリゼーションの下では、貿易障壁や輸送費の低下を背景にモノのみ
ならず企業や人、資本が国境を越えて移動します。
 したがって、産業集積においても国際的なつながりを考えることが不可欠になります。

 ジュネーブ高等国際研究所のR・ボールドウィン教授は最近の著書『The Great 
Convergence』で、一貫して成長してきた先進国が1990年以降に失速する一方、発
展途上国が急激に成長し、世界経済の格差が縮小・平準化していると唱えています

 この変化の背景にはICT(情報通信技術)の急速な発達によるコミュニケーションコストの
低下と国際的な生産ネットワーク拡大があります
 先進国が独占してきた製造業の生産工程が分割され、途上国を含め国際的に広がってネットワ
ーク化しているのです。
 生産や販売・サービスの工程が細分化され、各国は特定の工程に特化して国際間分業しています。
 これはグローバルバリューチェーンと呼ばれます。

 地方経済を活性化するには、こうした国際的ネットワークに地方の産業集積を直接組み込んで
いくことが考えられます。
 現在、都心部の本社・販売機能と地方の生産機能が相互依存関係にありますが、ここから脱却
して、海外(特にアジア)の生産工程に直接つながることで、グローバル化をうまく利用し、高
度な産業集積を形成するのです。

 バリューチェーンに加わる際に重要なのが「比較優位」です。国際貿易論の要となる概念です。
 相手と比較して得意なものに特化していくという概念です。
 自分の得意な産業に特化して生産し(特化の利益)、それをお互い交換すること(交換の利益)
で効率性が増し、お互いに得をする。これが貿易の利益です。

 バリューチェーンに組み込まれるためには、何が各地域の「比較優位」なのかを従来以上に問
われることになります。
 地域の企業は何が得意なのか、どの分野で国際的に勝負できるのかにより、バリューチェーンへ
の参加や地域の活性化が大きく左右されるのです。

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国内の空間経済学論、日本国内の産業集積をめぐる議論では、今後の地方創生の政策・戦略上の
有効な方策を見出せないのでしょうか、過去の包括的な評価で一旦終わってしまいました。

そして、空間は、グローバルに広がり、比較優位性を重視した、海外でのバリューチェーン構築
政策にシフトしました。
一貫して成長してきた先進国が1990年以降に失速する一方、発展途上国が急激に成長し、世界
経済の格差が縮小・平準化している」という他の学者の主張を援用することで、グローバル化の妥
当性・必然性を持ちだしているのですが、その評価はどうでしょう。
確かに、先進国は成長率で見れば失速し、発展途上国は逆、と見なせます。しかしそれは、分母
の大きさゆえのことであり、海外発展途上国への展開の母体が、先進国の資本と企業であったこと
を考えれば、その表現の妥当性は、ほんの一部分に限ると言えます。

そして、文中にある「比較優位」の要素では、人件費、工場等事業所建設費などの、コストの優
位性が多くを占めていること。次いで、事業における、他国・他地域からの原材料、生産財など
インプットの流通コストとサプライチェーン、アウトプットのサプライチェーンなどの立地性のレ
ベルなどが挙げられます。
しかし、その評価は、進出する国・企業側が行う評価であり、受け入れる国・地域が自ら主体的
に構築したと呼べる要素は、少なく、低いことが多いでしょう。

これは、歴史を遡れば、日本国内の産業史においても類似した要素が見られたはずです。
今回の小論の流れは、海外への展開を、国内企業も考えるべき、という論点からなのでしょうが、
その前の、国内における地方創生課題はどうするのでしょうか。
もちろん、地方企業の海外展開は既に多数行われており、成功事例・成功モデルも多数あります。
しかし、それを果たした地方企業は、基盤としている国内地域でのこれからの産業集積ではなく、
海外での展開を選択したわけです。
それでは、国内の地方創生課題は、改善も前進も見られないまま・・・。

このミニ講座の落としどころは、どうなるのでしょうか。
次回の2回分のまとめで、総括となります。
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