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政治

与えられた戦後民主主義の理解とその後の懸念、そして今:『シルバー・デモクラシー』から(2)

シルバー・デモクラシー――戦後世代の覚悟と責任』(寺島実郎氏著・2017/1/20刊)。

早稲田大学が、革マル総本山のひとつの象徴でもあった時代に、その場所で、「右翼秩序派」
と他から称されて、異なる活動をしたという1947年生まれ、団塊の世代に属する寺島氏。
早くからマスコミ・論壇に登場し、氏のその存在感をTV視聴者として見ていた私。
読み始めて、納得と異議が、交互に打ち寄せるこの書を紹介しながら、もうしばらくは、望
ましい指針を見失っているこの社会を生きてみるつもりでいる私の、思うところをメモして
いくことにします。

「第1章 戦後民主主義の総括と新たな地平 -「与えられた民主主義」を超えて」
第1回:2017年3月11日に思う昭和、平成、そして来る次の時代

今回は、第2回です。

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 与えられた民主主義への当惑と馴化 -出発点の確認
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1945年の太平洋戦争敗戦後、連合国軍最高司令官司令部(GHQ)の占領下に置かれた
日本の、ためらいの中での民主主義のスタートであった。同年10月、連合国軍最高司令
官マッカーサーが、幣原喜重郎内閣に、女性の参政権、労働者の団結権、教育の民主化、
秘密警察の廃止、経済の民主化からなる「民主化の5大改革」を指示。後の日本国憲法
に凝縮される「戦後民主主義」が動き始めた。つまり、与えられた民主主義であった。
 これを受け止めた日本人の当惑は、雑誌『世界』の創刊号(1946年1月号)の安倍能成
の巻頭論文「剛毅と真実と知慧とを」に象徴されている。

民主主義的精神はその根柢に存する道理と正義によって受け入れられるべきではあるが、
歴史と伝統を異にせる日本に対して、アメリカそのままの民主主義を模倣的再現を試みる
つもりのないことは、アメリカ人自身の夙(つと)に言明せるところである」と安倍能成
は述べた。

 同じ号に寄稿された美濃部達吉の「民主主義と我が議会制度」に至っては、「それ(日
本のこれからの民主主義)は国民主権という意味に於いての民主主義ではなく、君主主権
主義は依然これを確保しながら、君主が民の心を以て心と為し、民意に従って国政を行う
ことが、所謂民主主義の要求するところに外ならぬ」という次元の認識だった。直前まで
国家主義一色だった多くの日本人の困惑は推して知るべし、である。

J

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安倍首相をはじめ、現在の閣僚はもちろん、すべての国会議員は、この尾崎行雄の良識と、
その20年後の渡辺洋三、30年後の日高六郎の懸念を、どう読み、どう感じ、自身の現在と
これからの政治をどうすべきと考えるでしょうか。
自らの信条の定義をどう確認し、あるいはどう見直すべきと、真摯に考えてくれるでしょ
うか。安倍能成が、アメリカ人の言として提示した内容の根源のひとつは、美濃部にあまりに
も幼稚な理解をせしめた要因でもある、象徴天皇を憲法に組み入れたことにあると言える。
そう考えています。

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 尾崎行雄の予言
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しかし、民主主義の意味を深く認識している論者もいた。1947年、私の生まれた年であ
るが、88歳になっていた尾崎行雄は『民主政治読本』(日本評論社)を著し、「敗戦の最
大収穫は、主権在民の大宣言を前文とし11章103条からなる新憲法であろう」として、「
もし戦争に敗れなかったら、人民の基本人権をかくまで徹底的に保障したこんな立派な大
法典がとてもかち得なかったであろう」と述べた。

 そして、新憲法は「連合軍のおくり物としてただでもらったような物」だから、粗末に
しかねないという見方に対し、「この憲法は数百万人の人の命と、数千憶の戦費と、タイ
ワン・チョーセン・カバフト・チシマ等の領土と、無条件降伏という最大の不名誉を代価
にして、やっと手に入れたたから」という認識を示し、「民主主義は必ず人民自身によっ
て行われる政治でなければならぬ」と述べ、「日本の民主化の実現を妨げるものありとす
れば、それは唯一、国民自身の無自覚怠まんがあるだけである」という不気味な予言を行
っている。戦後民主主義の原点にある言葉と受け止めるべきであろう

 それから20年が経過した1967年、法社会学者渡辺洋三は『日本における民主主義の状態
(岩波新書)を書き、戦後20年が経過した時点での日本を分析し、「多数党が与党として
政府を構成し、その政府の政策を多数の名でおしつけるという、与党と政府のなれあいの場
に転化させられている。・・・・・議会が、政府に対立し相互にチェック・アンド・バラン
スの関係にたつという三権分立の民主的理念は実現」しないことに危機意識を語っている。
 日本国憲法が施行されて20年、戦後民主主義が一応定着したかに思われた時点でも、民主
主義の空洞化は常態であった

 さらにその約10年後、真剣に戦後民主主義に向き合った論者である日高六郎は、1976年
9月号の『世界』で「戦後史を考える 三木清の死からロッキード事件まで」と題し、次の
ように書いている。

軍国主義から民主主義への移動が、こんなに楽なものだと、だれが予想していただろう
いま私たちは、ひょっとしたら、民主主義から、得体のしれない管理主義的全体主義への
なだらかな道を、スローモーションのように歩いているかもしれない

 1976年といえば、60年安保闘争と70年全共闘運動という「政治の季節」が一巡し、日
本が「高度経済成長」後の時代の空気に包まれていた頃であった。1966年に日本の一人
当たりGDPは1000ドルを超し、1981年に1万ドルを超すのだが、15年間で一人当たりGDP
を10倍にした時代だったのである。民主主義的風潮が、何となく国民に浸透したかに見え
て、何かが本質的に欠けている---、そんな不安がよぎる時代だった。


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安倍首相をはじめ、現在の閣僚はもちろん、すべての国会議員は、この尾崎行雄の良識と、
その20年後の渡辺洋三、30年後の日高六郎の懸念を、どう読み、どう感じ、自身の現在と
これからの政治をどうすべきと考えるでしょうか。
自らの信条の定義をどう確認し、あるいはどう見直すべきと、真摯に考えてくれるでしょ
うか。
より厳しく申し上げるならば、こうした次元、レベルでの信条と心情とを、自分の言葉で
表現し、語ることができる政治家が、どれほどいるものか・・・。
個人資産の公開などよりも、個人政治信条の公開をこそ行うべき。
そんなことをふと思った次第です。

3
※次回は、<丸山眞男の『である』ことと『する』こと -60年安保のキーワード>です。

 

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