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政治

劣化した代議制民主主義、復活のシナリオ作りを期待したい人たち:『シルバー・デモクラシー』から(8)

シルバー・デモクラシー――戦後世代の覚悟と責任』(寺島実郎氏著・2017/1/20刊)。
筆者とほぼ同世代で前期高齢者のシルバー・デモクラシー世代に属する私が、本書を紹介し
共に考えながら思うところをメモしていくシリーズです。

「第1章 戦後民主主義の総括と新たな地平 -「与えられた民主主義」を超えて」
第1回:2017年3月11日に思う昭和、平成、そして来る次の時代
第2回:与えられた戦後民主主義の理解とその後の懸念、そして今
第3回:70年安保・全共闘世代、団塊の世代の責任とは?
第4回:かち得た民主主義ではなく、与えられた民主主義的国家日本
第5回:思想と現実の統合を構想できなかった全共闘・団塊世代とその後
第6回:団塊の世代責任と体たらく民主党責任は同根?
第7回:課題・問題を抱える民主主義の改善を可能にする仕組み作りの責任

今回は、その第8回。
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  直接民主制への限りない誘惑
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その背後にある大きな要因が、ICT(情報通信技術)革命の進行に伴う「直接民主主義
は技術的に可能かもしれない」という変化である。これまでの政治学の常識は、「ギリシ
ャ・ローマの都市政治ならば、直接民主主義は可能かもしれないが、大衆が政治参加する
現代政治においては、代議者が国民と意思決定を繋ぐ道管の役割を果たさざるをえない」
というものであった。
しかし、ICT革命が進行し、ネットワーク情報技術が浸透して「ビッグデータ」「IoT」
といわれる時代を迎え、「もし、ある争点に関して、正確に国民の意思を問うのであれば、
本人認証を厳密化したインターネット投票によって、技術的には確認することが可能かも
しれない」という時代が到来しているのである。

直接民主主義への限りない誘惑であり、その技術可能性への予感が、国民の意思を反映
していない代議制の現実と政治を弄ぶ自堕落な代議者の実態に憤り、「政治不信」を加速
させているのである。2015年夏、安保法制を巡って国会前に集まった人々が、これまで
の市民運動、労組、団体と異なり、「ネットで呼びかけ、呼応する人たち」という性格を
持っていたのは偶然ではない。

私は必ずしも直接民主主義を支持しているわけではない。民主主義こそ指導者を必要と
しており、移ろいやすい民意に乗った劇場型政治がよいとは思わない。「大衆の反逆」(
オルテガ・イ・ガセット)に過敏に振り回される政治は危険でさえある。だからこそ代議
者も役割が大切であり、単に民意をストレートにつなぐだけの役割ではなく、識見を持っ
たオピニオン・リーダーとして意思決定の質を高める役割を担わねばならない。だが、現
状の多くの議員は政党内での数合わせの陣笠にすぎず、代議制での議論を通じて意思決定
の質が高まっているとは思えない。

 もし、代議制民主主義の価値を認め、生かすのならば、代議制の錬磨に取り組まねばな
らない。具体的には、政治で飯を食う人の極小化であり、代議者の定数削減であり、任期
の制限である。日本は、人口比で米国の3倍の国会議員を抱え、1人当たり年間2億円の国
家予算を代議制のコストとしている。人口が今後40年間で3割減ると予想されている国で、
国会議員の数を半減することは合理性があり、任期を何年かに制限することは、孫子の代
まで政治家を継承する世襲議員や政党を渡り歩くゾンビ議員を消去するために必要な筋道
であろう。

「定数削減」は2012年の政権交代時の約束だったはずであり、その後の経過を注視す
れば、いかに政治で飯を食う人たちが与野党ともに互助会的に現状にしがみついているか
がわかる。選挙時の「風」と小選挙区制の魔術で当選した劣悪な議員ではなく、尊敬され
る優れた代議者を選び育てる仕組みづくりが実現されねばならない。

 もう一つ、「首相専制政治の牽制」に工夫を要する局面に来ている。「タテ割り行政の
排除」という意図もあり、官邸主導がこのところ流行である。「日本版NSC(国家安全保
障会議)」などの統括組織の新設、やたら増える「担当大臣」の登場で、本来の主務省庁
との役割分担が不明なまま奇妙な首相専制政治が繰り広げられている。

 議会のチェックも与党内の牽制も効かぬ首相主導は危険である。代議制の下で大統領に
近い権限を首相に行使させるのであれば、現行憲法通りに議会が首相を選ぶにせよ、国民
投票で信任を問うなどの方式が付加されるべきであろう。

2

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かなり、ど真ん中の正論になってきました。
こうした好ましからざる政治の流れをどのようにくい止め、望ましい流れに変えるか。
政党政治が、モデル民主主義通りには機能しなくなってきた時代における政治改革は、
だれが、リーダーシップをとり、どのような手法で行うことが可能か・・・。
与野党を問わず、既成政党と政治家にその変革のリーダーシップを委ねることが困難
な状況下、改革が可能な政治組織体制の構築につながる選挙戦を、戦略的に構想し、
構築する。カネをかけずに・・・。

本書の執筆者、寺島氏や、今月からシリーズを開始した
「老後不安不況」を吹き飛ばせ! 「失われた25年」の正体と具体的処方箋』の筆者
大前氏のような手練れ、論客がそのシナリオを描き、実現化の道筋に導いてくれれば
と思うのですが、それぞれの書で、そうした展開を期待できるでしょうか。
少しは期待感を抱いて、進めていきます。


※次回は、第1章の最終項、<戦後民主主義義 成熟した国民国家>です。
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【『シルバー・デモクラシー――戦後世代の覚悟と責任』構成】
はじめに - 戦後日本のタイムカプセルを開くような考察の試みとして
第1章 戦後民主主義の総括と新たな地平 - 「与えられた民主主義」を超えて
第2章 戦後世代としての原点回帰 - 1980年という時点での自画像
第3章 それからの団塊の世代を見つめて - 21世紀に入っての2つの論稿
第4章 2016年参議院選挙におけるシルバー・デモクラシーの現実
      - なぜ高齢者はアベノミクスを支持するのか
第5章 2016年の米国大統領選挙の深層 - 民主主義は資本主義を制御できるのか
第6章 シルバー・デモクラシーの地平 - 結論はまだ見えない、参加型高齢社会への構想力 おわりに 

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【寺島実郎氏プロフィール】
◆1947年北海道生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了後、
三井物産入社。米国三井物産ワシントン事務所長、三井物産常務執行役員、
三井物産戦略研究所会長等を経て、現在は(一財)日本総合研究所会長、
多摩大学学長。
◆国交省・社会資本整備審議会計画推進部委員、経産省・
資源エネルギー庁
総合資源エネルギー調査会基本政策分科会委員、農水省・「食と農の景勝地」
審査委員会委員長を務める。
◆著書:『脳力のレッスンⅠ~Ⅳ』『中東・エネルギー・地政学』『世界を知る力』他

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