議事堂

シルバー・デモクラシー

2016年参院選以降の日本の政治と2017年グローバル社会の政治の季節を重ねる:『シルバー・デモクラシー』から(10)

シルバー・デモクラシー――戦後世代の覚悟と責任』(寺島実郎氏著・2017/1/20刊)。
筆者とほぼ同世代で前期高齢者のシルバー・デモクラシー世代に属する私が、本書を紹介し
共に考えながら思うところをメモしていくシリーズです。

「第1章 戦後民主主義の総括と新たな地平 -「与えられた民主主義」を超えて」
第1回:2017年3月11日に思う昭和、平成、そして来る次の時代
第2回:与えられた戦後民主主義の理解とその後の懸念、そして今
第3回:70年安保・全共闘世代、団塊の世代の責任とは?
第4回:かち得た民主主義ではなく、与えられた民主主義的国家日本
第5回:思想と現実の統合を構想できなかった全共闘・団塊世代とその後
第6回:団塊の世代責任と体たらく民主党責任は同根?
第7回:課題・問題を抱える民主主義の改善を可能にする仕組み作りの責任
第8回:劣化した代議制民主主義、復活のシナリオ作りを期待したい人たち
第9回:未だ実現されていない普遍的民主主義を追求すべき日本の使命

今回から、
「第4章 2016年参議院選挙におけるシルバー・デモクラシーの現実
- なぜ高齢者はアベノミクスを支持するのか」

に跳びます。
その第1回(通算第10回)です。
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 2016年7月10日の第24回参議院選挙の投票日の朝、TBSの報道番組「サンデーモーニング」へ
の出演に際し、報道の関係者から、各紙、各局の最終予測について「与党圧勝はまちがいなく、自
民党単独過半数、改憲勢力3分の2は確実」という情勢説明を受けた。私が「国民はそれほど愚か
ではないはず」と私見を述べると、「いや、愚かなんですよ」という答えが返ってきた。
午後8時、投票が締め切られると同時に、各TV局は予想を出した。NHKは、「与党大勝」を前提
にしたかのように、自民単独過半数となる議席「57」や改憲発議に必要な3分の2に至る「162」な
どを要注目の数字として示し、出口調査などを踏まえ、それらの数字を上回る大勝という予想を出
していた。

しかし、結果として自民党は「56」議席に留まり、単独過半数には届かなかった。また、「改憲
勢力」が3分の2という議論にしても、当初は自民、公明、おおさか維新の会(現日本維新の会)、
日本のこころを大切にする党という「改憲4党」で3分の2という話だったが、この4党では161議
席と、やはり1議席届かなかったため、「改憲に前向きな無所属議員も含む」という枠組みで165
議席とし、「改憲勢力が3分の2超」という報道となった。
 直前のメディア予測は外れた。にもかかわらず、自民党6議席増、公明党5議席増、与党で11議
席増であり、無所属も含む改憲勢力で3分の2を超えたことで、「与党大勝ということにしておこう」
という報道に収斂させ、何故直前予測が当たらなかったのかについては、メディアは沈黙を決め込
んでいる。

 NHKの開票速報開始時点での、民進党の議席予想は「22~29」であった。結果は「32」だった。
 野党第一党も意外に健闘したなどと寝ぼけたことを言っているのではない。民進党が主体的に流
れを創ったなどという話は一切ない。国民に納得のいく選択肢を提示することもなく、健闘といえ
るレベルの話ではない。ただ、何故、与党・自民党は直前の予想外に伸びなかったのか。さらに、
言われていたほど共産党も伸びなかったのかを解明することは、日本の政治の今後を考察する上で
重要である。

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 ほんとうに「与党大勝」なのか 国民の迷いとためらい
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 結論をいえば、「投票には行っても、入れるべき候補者がいない」という貧困なる選択肢の
中から、国民はギリギリのバランス感覚を見せたというのが、この参院選の結果だったと思う。
国民はそれほど愚かではなかったのであり、ただ、安倍政治に代わる政策軸を見出せないま
ま立ち尽くしているということでもある。

基本的な数字を確認しておきたい。この選挙における参議院比例区での自民党の得票率である。
 ここに政権への国民の評価・認識が現れるからである。
(以下、文章を簡略化します)
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

比例区での自民党得票率は35.9%、前回第23回は34.7%で、1.2%増。
 しかし、投票率が54.7%だったことから、有権者総数の19.6%の得票で、有権者の2割に満た
ない得票で改選議席の46.3%を占めるという、選挙制度の魔術によって「圧勝」を実現した。
 また、公明党の比例区での得票は、第24回参院選では13.5%、第23回より0.7%減。
 従い、与党の得票率は前回比で、0.5%の微増。
 一方、野党第一党の民進党の比例区得票率は、21.0%。第23回の民主党の得票率13.4%から
7.6%増。同じく第23回の日本維新の会(11.9%)、みんなの党(8.9%)を考えると、そのか
なりの部分を吸収・統合した野党再編の割には、得票率は伸びなかったとみるべき。
 政党支持率という世論調査の動向を見れば、民進党の支持率は今回の比例区での得票率の半分
程度であろう。
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
さて、直前の予想が当たらなかった大きなポイントが、第23回参院選で与党の29勝2敗だった
「一人区」(第23回では31選挙区)で、21勝11敗となったことである。「野党共闘」の効果と
見ることもできるが、現場の事情を聴くと、「共闘効果」というよりもTPPの交渉経過が見える
につれて、農業関係者が「裏切られた」ことに反発を強めた。その結果、東北6県中、秋田を除
く5県で野党統一候補が勝利し、長野・新潟といった農業県でも、JAグループの政治団体が自主
投票にしたことが自民敗北をもたらしたといえる。北海道は定数3人区であるが、民進党が2議
席を確保し、自民党候補が次点に泣いた理由も、TPPへの反発にあるといえる。

もう一つ、最後のところで与党の得票が伸びず、票が野党に向かった理由は、「アベノミクス」
に象徴される経済政策、「安保法制」に象徴される外交安保政策について、現政権が推し進める
政策への懸念と逡巡が「ここは野党に入れておこう」というギリギリの投票行動をもたらしたと
みるべきであろう。日本はまちがった方向に進んでいるような気はするが、どう進むべきかの代
案も見えない。そうした投票行動をもたらした社会構造は後述することにしてこの2016年参院選
で気になる何点かを明らかにしておきたい。

選挙3

※次回、<2016年参院選が示したもの> に続きます。

----------------------------

  昨年の米国大統領選挙から一つの潮流となっているかのようなポピュリズム政治。
米国トランプ大統領についで、仏マクロン大統領の誕生を見た、グローバル社会における
政治動向。
今日5月9日は、韓国大統領選投票日。

本題の昨夏のわが国の参議院選のことなど遠い過去のことのようです。
しかし、その結果を背景にして、2020年改憲の道筋作りを提示した安倍首相。
自民党総裁としての発言と内閣総理大臣としての発言、などと、夫人の公私の線引き云々
とさして変わらない都合のよい発言・表現で、どさくさに紛れ、数に物言わせて押し切るス
タンスをいよいよ押し出しつつあります。

それが、シルバー・ポピュリズムとほぼ同義的な、シルバー・デモクラシーの結果として
の昨夏の参院選に拠るところであることは、団塊世代以上は心しておくべきでしょう。

グローバル社会での政治の年、政治の季節の2017年。
他の諸国の政治・選挙の状況を決して他人事とせず、我々の国の明日と将来に関わる事象・
結果と受け止め、望ましい行動に結びつけることができるよう、注視し、考察すべきと考えます。

22

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【『シルバー・デモクラシー――戦後世代の覚悟と責任』構成】
はじめに - 戦後日本のタイムカプセルを開くような考察の試みとして
第1章 戦後民主主義の総括と新たな地平 - 「与えられた民主主義」を超えて
第2章 戦後世代としての原点回帰 - 1980年という時点での自画像
第3章 それからの団塊の世代を見つめて - 21世紀に入っての2つの論稿
第4章 2016年参議院選挙におけるシルバー・デモクラシーの現実
      - なぜ高齢者はアベノミクスを支持するのか
第5章 2016年の米国大統領選挙の深層 - 民主主義は資本主義を制御できるのか
第6章 シルバー・デモクラシーの地平 - 結論はまだ見えない、参加型高齢社会への構想力 おわりに 

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【寺島実郎氏プロフィール】
◆1947年北海道生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了後、
三井物産入社。米国三井物産ワシントン事務所長、三井物産常務執行役員、
三井物産戦略研究所会長等を経て、現在は(一財)日本総合研究所会長、
多摩大学学長。
◆国交省・社会資本整備審議会計画推進部委員、経産省・
資源エネルギー庁
総合資源エネルギー調査会基本政策分科会委員、農水省・「食と農の景勝地」
審査委員会委員長を務める。
◆著書:『脳力のレッスンⅠ~Ⅳ』『中東・エネルギー・地政学』『世界を知る力』他

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